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2021年07月30日01:33

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ドイツ連邦憲法裁判所が「気候保護法は不十分」と改善を要求

今年5月7日に書いた記事です。日経ESGに掲載。イラストも自筆です。


 4月29日に連邦憲法裁判所が言い渡した判決が、ドイツの非炭素化を加速している。裁判官たちは、「2019年に施行された気候保護法の内容は不十分であり、将来の世代に過重な負担を与える危険がある」と批判。これを受けてメルケル政権は、カーボンニュートラル達成を5年早める方針を明らかにした。

*「気候保護法を是正し、将来の市民の基本権を守れ」

 ドイツでは、同国で最も強い影響力を持つ連邦憲法裁が、地球温暖化対策の改善を求める市民の訴えを部分的に認定したことについて、驚きの声が上がっている。この裁判所の命令には政府も従わなくてはならず、控訴、上告はできない。
 この判決の画期的な点は、憲法裁が「環境保護のためのコストを世代間で公平に分配するべきだ。今日の不作為のツケを将来の世代に押しつけてはならない」と指摘したことだ。
 2019年に施行された気候保護法はドイツ政府に対し、2030年までにGHGの排出量を、90年比で少なくとも55%減らすことを義務付けている。さらに政府は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという長期目標も追求しなくてはならない。
 裁判官たちは判決文の中で、「気候保護法は、2030年までにエネルギー業界や工業界などが毎年排出するGHGの上限値を設定している。しかし、20301年から2050年までの期間については、上限値など詳しい対策を明記していない」と法律の手落ちを批判。
 憲法裁は「この不備のために、若者たちが2030年以降大きな努力を強いられる可能性がある。今以上にGHG削減努力の強化が必要になり、生活や職業の自由などの市民権が制限されるかもしれない。将来の世代が、現在の市民に比べて大きな負担を科せられるのは平等性を欠いており、違憲である」と結論付けた。政府は2022年末までに法律を改正しなくてはならない。
 提訴していたのは、北海のペルヴォルム島に住むゾフィー・バックセン氏(22歳)と3人の兄弟、環境保護団体フライデーズ・フォー・フューチャー・ドイツ支部のルイーゼ・ノイバウアー支部長ら。バックセン氏らは、「私たちの母親はペルヴォルム島で農業を営んでいるが、地球温暖化によって海面が上昇しており、将来海水が地表を覆って、農業ができなくなる可能性がある。政府の気候保護政策が不十分であるために、我々の将来の生活権が侵害される」と主張していた。
 ノイバウアー支部長は、「この判決は我々の勝利だ。気候保護は贅沢な要求ではなく、市民の基本的人権だ」と述べた。

*連邦議会選挙にも影響
 この判決は今年9月26日の連邦議会選挙にも影響を与えそうだ。実際、各党は競ってCO2削減に拍車をかけることを提案している。緑の党の首相候補アンナレーナ・ベーアボック首相候補は「地球温暖化に歯止めをかけるための戦いにとって重要な、歴史的な判決」と高く評価。同氏は、「我々が選挙後に連立政権に参加した暁には、パリ協定の目標達成を我が国の最重要課題とし、経済の全ての分野について、カーボンニュートラルに到達するための道筋を具体的に決める」という方針を明らかにした。緑の党は、メルケル政権が2038年に予定している脱石炭を8年早めるよう求めている。
 判決を受けてメルケル政権は、気候保護目標を大幅に修正する方針を打ち出した。2030年のGHGの90年比の削減幅を55%から65%に拡大する他、カーボンニュートラル達成期限を2050年から2045年に早める。
 ワクチン投与の遅れなどのために保守政党の支持率が下がる中、緑の党の支持率は上昇しており、同党が連邦議会選挙後に政権入りするのはほぼ確実。与党が気候保護目標を厳しくする理由は、緑の党に支持者を奪われるのを防ぐためだ。

*産業界からは批判の声

 だが産業界からは判決について当惑する声も聞かれる。ドイツ機械工業会(VDMA)のティロ・ボドマン専務理事は、「将来の技術革新で、GHG削減は進むはずだ。だが今の時点では、技術革新の内容はわからない。そうした不確定性があるのに、今から2031〜2050年のGHG排出量の上限を厳密に決めるのは難しい」と指摘している。ドイツ自動車工業会も、「計画経済的な禁止措置よりも、競争などの市場メカニズムによってGHG削減を加速するべきだ」と主張している。
 ただし、ドイツ市民の連邦憲法裁への信頼感は強い。その裁判所が、初めて「気候保護は将来の世代の私権を守る上でも重要」と認定したことの意義は大きい。今回の判決が、経済非炭素化の加速を求める環境保護団体や緑の党にとって追い風となることは間違いない。市民の間でも「現在の便利さを減らしても、子どもや孫たちが住みやすい環境を守らなくてはならない」という意識が高まるだろう。この国ではESG重視の傾向がさらに強まりそうだ。
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