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2021年02月26日16:11

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イスラエル人と安全

2002年12月に書いた記事です。

「私が選挙でシャロンに投票したのは、彼がテロを抑え、安全をもたらしてくれると思ったからです。でも結果的には、逆にテロが増えたのでがっかりしました」。政治的にはリベラルなイスラエル人の大学教授が言った。この言葉に現われているように、イスラエル人にとって最も大事なものは安全である。イスラエルの新聞は毎日、様々なカバンの写真を添えた大きな広告を載せ、「不審な荷物を見たらすぐに警察に通報しましょう」と呼びかけている。爆弾テロを防ぐためである。私の知り合いは、店にうっかりカバンを置き忘れて、戻ってみたら警察の爆発物処理班がカバンを粉々に破壊した後だったと話していた。
この国が安全の確保にいかに情熱を注いでいるかを感じるのは、ベングリオン空港から飛び立つ時である。入国時よりも出国時の検査の方がはるかに厳しい。まず空港に近づく車はすべて、ウーズィー型短機関銃を持った私服警察官によって点検を受ける。チェックインのカウンターに行くまでの荷物検査は、厳重を極め、一時間はたっぷりかかる。乗客が預ける荷物はすべてX線検査を受けるが、その時に使われるX線装置の大きさは、欧米の空港で使われている機械の三倍はあるだろう。また欧米のように、カバンはスムーズに流れていかず、一個につき機械の中に五分間は止められて、X線による透視を受ける。その上に、職員がすべてのトランクを開いて、内部を微に入り細にわたって、点検する。トランクが二重底になっていないかなどを、手で触れて調べるのだ。私の持っていた歯磨きのチューブにも、機械を当てて点検していた。プラスチック(可塑性)爆弾かどうかを調べるためだ。職員は私のトランクから目覚まし時計を取り出すと、どこかへ行ったまま十分間帰ってこなかった。時限爆弾でないかどうか詳しく点検していたのだろう。
さらに念入りなことに、職員が乗客一人一人を三十分近く「尋問」する。乗客はイスラエルで誰に会い、どこに泊まったか、誰かから贈り物をもらったかなどについて、細かく答えなくてはならない。時には、自分の仕事の内容や種類まで説明させられることもある。テロリストかどうか見抜くためである。
彼らの安全への執念を感じさせるエピソードがある。フランクフルト空港で、テルアビブ行きの飛行機で客室の清掃作業が行われている時に、清掃員を装った男が車で乗り付け、機内に入ろうとした。警備員が男の身体検査を行ったところ、ナイフが発見された。警備員が警察に無線で連絡しようとしたところ、男は「これは、安全を検査するためのテストです」と言い残して車で逃走した。ドイツの捜査当局は、この日に抜き打ちテストを行った官庁が見つからなかったため、当初、テロリストが機内にナイフを隠そうとしたという疑いも持ったが、最終的には、イスラエルの情報機関モサドが、ドイツの航空会社や捜査当局が十分安全点検を行っているかどうかをチェックするために、時折抜き打ちで行う、安全テストだったという見方を取っている。
イスラエルを訪れると、この国がつねに臨戦態勢にあることを感じる。ある会社では、ビルの真ん中に窓のない部屋があり、水や食糧が保存されていた。空襲やミサイル攻撃の際に社員を避難させる待避所である。ドアと戸口の間は、ゴムで目張りがされ、外の空気を遮断できるようになっている。毒ガスや化学兵器による攻撃に対する備えである。また国民全員が、家にガスマスクを持つことを義務付けられている。マスクの先端には、空気を浄化するためのフィルターを取りつけるが、フィルターは一定の期間を過ぎると効力がなくなるので、定期的に交換しなくてはならない。しかし、イスラエル人たちはこうした手間も、安全を守るための当然のコストと考えて、受け入れている。
こうした安全への執着の背景には、ナチスが数百万人のユダヤ人を虐殺するなど、ユダヤ人たちが過去二000年にわたって、迫害を受けてきたという歴史がある。
たとえばドイツや日本では、国防や軍隊について否定的な考えの人が多いが、イスラエルでは全く逆であり、ほとんどの国民が兵役を当然の義務と考えている。それどころかある母親は「私は息子がいま軍隊にいることを誇りに思う」と言い切った。若い女性が、「軍での勤務はとても楽しかった」というのを聞いたこともある。ドイツにも兵役義務があるが、若者のほとんどは、軍隊生活が大嫌いである。二つの国の間にある教育の違いが、ここにはっきりと現れている。ナチスに散々な目にあわされたユダヤ人たちにとって、武器で国を守ることは、呼吸をすることと同じくらい当たり前になっているのだ。その安全への執着の前には、敵側に属する市民の人権など目に入らなくなってしまう。それがパレスチナ紛争の泥沼化につながっている。
英国などのユダヤ人家庭に生まれ、成人になってからイスラエルに貢献する理想に燃えて、この国へ移住してきた人も少なくない。そうした人々は、イスラエルが多くの敵に囲まれていることや、テロの危険にさらされていることなど気にせず、イスラエルこそ自分の骨を埋める場所とかたく信じている。いわゆる祖国に対する愛情が希薄になっているドイツや日本から来ると、彼らの祖国愛の強烈さには、驚かされることがある。

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