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2020年09月20日14:48

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Italy

去年8月に発表した記事です。

「ヨーロッパで最も危険な男」サルビーニの国盗り作戦
新ユーロ危機の影に怯えるEU


イタリア政府が激震を経験している。右派ポピュリスト政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ内務大臣が8月8日に「五つ星運動との連立は崩壊した」と宣言し、今年秋に総選挙の実施を要求したからだ。彼は議会に対し、五つ星運動に近いジュセッペ・コンテ首相に対する不信任投票を直ちに行うよう求めた。「同盟」の支持率が上昇しているため、彼は選挙を実施すれば自分の党が圧勝し、自ら首相になれると考えているのだ。

 8月13日の時点で、サルビーニ内相の「クーデター計画」は一旦ブレーキをかけられた。この日イタリア議会上院が、不信任投票の実施を拒否したからだ。上院は、まずコンテ首相に対して今回の政治危機について態度を表明するよう求めた。その後議会がサルビーニ氏の要求通り不信任投票を行うかどうかは、確定していない。
 サルビーニ氏は出鼻をくじかれた形だが、他のEU加盟国には不安感が広がっている。ドイツのメディアは「万一サルビーニが首相になった場合、EUの求める緊縮策に真っ向から反対する」として、イタリアのユーロ放棄、さらにEU離脱の可能性まで危惧している。

*右派ポピュリスト政党の支持率が急上昇

 元々同盟と五つ星運動の連立政権樹立は、「野合」だった。同盟は難民受け入れに批判的な右派ポピュリスト政党、五つ星運動には環境問題などを重視する左派ポピュリストが多い。2つの勢力の共通点は、EUに対し批判的であるという点だけだった。権力の座に就くためには、主義主張が異なる党とも組んでしまうというのは、イタリア政界の特徴である。したがって、この不自然な連立政権に亀裂が生じるのは時間の問題だった。
 サルビーニ内相は、同盟が進める鉄道建設計画に五つ星運動が反対したことをきっかけに、左派との連立を一方的に放棄した。いや彼はむしろ、連立を解消する口実を探していたのかもしれない。その理由は、彼が率いる同盟への支持率が爆発的に高まっているからだ。今年5月の欧州議会選挙での同盟の得票率は34.3%。これは去年3月の議会上院・下院の選挙での得票率(17.3%)に比べて、17ポイントもの増加だ。逆に連立パートナーの五つ星運動の得票率は、32.7%から17.1%へ激減した。
 サルビーニ氏は、五つ星運動の人気が低落する中、他の右派政党と連立すれば過半数を占めて自分が首相に就任できると考えているのだ。彼はすでに2つの右派政党「フォルツァ・イタリア」と「フラテリ・デ・イタリア」の党首たちと近く会談する方針を明らかにしている。その意味で突然の連立解消は、サルビーニ氏の周到な計算に基づいた「国盗りクーデター」の一環と見るべきだろう。

*難民受け入れを拒否するサルビーニ内相
 ヨーロッパ南部では、難民問題が依然として大きなテーマとなっている。2018年に地中海を船で渡ってヨーロッパにたどり着いた外国人の数は約14万人だったが、今年は上半期だけですでに13万5000人が到着している。イタリアはヨーロッパの南部に位置しているため、多くの難民が目指す国である。国連難民高等弁務官(UNHCR)によると、今年3月31日までにイタリアに到着して収容施設に受け入れられた難民の数は約12万2000人。この内6300人がイタリアへの亡命を申請した。
 アフリカや中東からの難民から金を取ってヨーロッパに運ぶ「運送業者」たちは、ヨーロッパに近づくと難民たちを船からゴムボートに乗せて漂流させ、ヨーロッパの船に救助させる。この際に多くのゴムボートが転覆し、多数の死者が出る。
 去年1年間にヨーロッパへ向かう途中で溺死した難民の数は2277人にのぼる。サルビーニ内相は、難民受け入れについて否定的な姿勢を貫いている。今年7月には、ドイツのNGOのチャーター船「シー・ウォッチ3号」が地中海で漂流していた難民たちを救助してイタリアの港に接岸するのを禁止。サルビーニ氏は、禁止措置に反してむりやり接岸した船のドイツ人船長を密入国幇助の疑いで逮捕させた。彼は人道的な理由で難民を救助するNPOを「運送業者の片棒を担いで、イタリアへの外国人の不法入国を助ける犯罪者」と見なしているのだ。
 EUは2015年以来「イタリアやギリシャに到着した難民を、他のEU加盟国に振り分けるためのルールを決める」と約束してきたが、ポーランドやハンガリーなど東欧諸国の頑強な反対のために、この枠組み作りは今なお実現していない。イタリアでは、他の加盟国の国家エゴに対する不満が強まっている。「EUの連帯」はこと難民問題については全く機能していない。
 難民の人権や安全よりもイタリアの国益を最優先とするサルビーニ氏の強硬な政策は、国内への難民流入に懸念を抱く市民の間で支持率を高めているのだ。


*緊縮策をめぐりEUと対立

 サルビーニ氏が首相に就任するというのはイタリアの他政党だけではなく、EUにとっても最悪のシナリオだ。ユーロ圏加盟国は、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%未満、公的債務累積残高をGDPの60%未満に抑えることを義務付けられている。イタリアの2018年の財政赤字比率は2.1%、公的債務比率は132.2%。特に公的債務比率はギリシャに次いでEUで最悪の水準で、増える傾向にある。EU経済の優等生ドイツが毎年国の借金を着々と減らしているのとは、対照的である。
 イタリアはEU第4位のGDPを持つ重要な経済パワー。1950年代にEUを創設した国の1つでもある。EUはイタリアに対して、増税と歳出削減によって国家財政を健全化するよう求めている。
 だがサルビーニ内相はEUの要求をせせら笑うかのように、去年の総選挙で約束した通り、国民の負担を減らす方針だ。彼は首相に就任した場合、公的年金支給年齢の引き下げとベーシック・インカムの導入、減税に踏み切る。2011年にマリオ・モンティ政権は財政を健全化するために公的年金支給年齢の引き上げを決めたが、サルビーニ内相はこの年金改革を撤回する。イタリア政府によると、年金改革の撤回による政府の負担額は40億ユーロ(4800億円・1ユーロ=120円換算)、2020年までに80億ユーロ(9600億円)に膨らむ見通しだ。また現在イタリアの所得税率は23〜43%だが、サルビーニ内相は、所得税率を一律15%に引き下げることを目指している。またベーシック・インカムは約500万人と推定される貧困層の生活水準を引き上げることを狙うものだ。
 サルビーニ氏が首相としてこれらの政策を実施した場合、公的債務比率や財政赤字比率は現在よりも著しく悪化する。

*「EU離脱」という脅迫材料

 つまりサルビーニ氏は右派ポピュリストとしての公約を果たすためには、EUが求める緊縮策をはねつけなくてはならない。その場合、EUはイタリアに対して規則違反を理由に、制裁措置を導入することになる。「サルビーニ政権」は、EUとの正面衝突の道を歩むだろう。
 2013年4月から2014年2月までイタリアの首相だったエンリコ・レッタ氏は、ドイツのメディアに対して、「サルビーニ氏はイタリアをEUから離脱させようとするかもしれない」という危惧を語っている。彼はEUが求める緊縮策をはねつける際に、ユーロ圏もしくはEU離脱という「切り札」をちらつかせるというのだ。EU創設国の1つであるイタリアが万一EUを離脱した場合、EUにとっての打撃はBREXITをはるかに上回る。EU崩壊というシナリオが現実性を帯びるかもしれない。
 金融市場にも不安感が漂う。イタリアの10年物国債の利回り(リスク・プレミアム)は、8月7日には1.387%だったが、サルビーニ氏が連立解消を宣言した8月8日の翌日には一時31.5%も上昇して1.824%となった。コンテ首相に対する不信任投票が直ちに行われないことが判明したため、利回りは8月15日には1.516%まで下落した。しかし今後も「サルビーニ首相誕生」の兆候が表れるたびに、イタリア国債のリスク・プレミアムは、乱高下を繰り返すだろう。イタリア政局は、機関投資家たちにとってこの秋最大の懸案となる。

 ギリシャで2009年に債務危機が表面化した時、同国は市場で国債を売って借金することができなくなり、破綻の瀬戸際に追い込まれた。機関投資家たちが、「ギリシャ政府に金を貸すことは危険」と判断したからである。EUの緊急融資機関が多額の資金援助を行うことによって、ギリシャは「健康状態」を回復しつつある。
 だがイタリアの経済規模はギリシャの約9.6倍(2018年のGDPを比較)とはるかに大きい。万一イタリアが自力で資金調達を出来なくなった場合、EUの緊急融資機関による救済は極めて難しいと見られている。
 私はこれまでも本シリーズで「ギリシャ危機はまだ序章であり、ユーロ危機の本編はイタリア」と書いてきたが、サルビーニ氏の連立解消宣言は、そのシナリオに一段と現実味を与えている。
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イタリアの財政赤字比率とドイツの財政赤字比率の比較
資料=欧州連合統計局
マイナスは財政赤字、プラスは財政黒字

イタリア ドイツ
2011 -3.7% -1.0%
2012 -2.9% 0%
2013 -2.9% -0.1%
2014 -3.0% +0.6%
2015 -2.6% +0.8%
2016 -2.5% +0.9%
2017 -2.4% +1.0%
2018 -2.1% +1.7%


イタリアの公的債務比率とドイツの公的債務比率の比較
資料=欧州連合統計局

イタリア ドイツ
2011 116.5% 79.4%
2012 123.4% 80.7%
2013 129.0% 78.2%
2014 131.8% 75.3%
2015 131.6% 71.6%
2016 131.4% 68.5%
2017 131.4% 64.5%
2018 132.2% 60.9%



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