5月12日に書いた原稿です。
ロックダウンと違憲論争?
ドイツでは新型コロナウイルスの拡大を防ぐためのロックダウンによって、今年3月からの1ヶ月に失業者数が30万人も増えた。
ふつう春には冬に比べて失業者数が減る。4月に失業者が急増するのは極めて異例だ。
また工場や会社で仕事がなくなって自宅待機になり、給料の減額分の最高87%を政府から受け取っている労働者の数は1000万人を超える。
2009年のリーマンショックの際の約3倍だ。
このためドイツ各地では政府がコロナ対策の一環として営業権、市民権を制限していることについて、市民の抗議デモが増えている。
ミュンヘンでは5月9日に約3000人が集会に参加して政府を批判した。
この数は、警察に事前に伝えられていた80人を大幅に上回る。
多くの市民はマスク着用や、最低1.5mの距離を取るという規則を無視していた。政府に挑戦する姿勢がありありと伺われる。
2001年に施行された感染症防止法は、市民の自由を制限できる警察権を含む、強力な法律だ。
しかもこの法律に基づき、感染症拡大を防ぐための「法令」は、州政府が議会の承認や議論なしに発布できる。
つまり州議会の議員たちは口をはさむことができない。
連邦政府と州政府の首相が協議して政策の大筋を決めて、具体的な規制内容は州政府が決定して実行する。
だが感染症防止法に基づく法令は、憲法が保障する行動の自由、営業の自由、集会の自由、通信の秘密、住居を侵害されない権利などを著しく制限する。
このためドイツでは「メルケル政権や16の州政府の措置は、感染症拡大を防ぐという目的に比べると、市民権を過剰に制限したのではないか?」という議論が起き始めている。
ロックダウンは、多くの市民を失業に追い込んでいる。
市民生活にこれほど大きな影響を与える問題について、連邦議会や州議会が全く干渉することができないという現行の制度は、適切かどうかという論争が起きるだろう。
外出・営業禁止措置は今緩和されつつあるが、秋に第2波が来た場合は、再び行動の自由や職業行使の自由が制限される可能性がある。
ドイツは、日本に比べると訴訟社会だ。
すでに、ロックダウンによる営業禁止措置の違法性をめぐる行政訴訟が1000件以上提起されている。
私は、「コロナ対策のためのロックダウンは違憲だった」と考える人々が連邦憲法裁判所に訴訟を起こすのは、時間の問題だと考えている。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ
http://www.tkumagai.de
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