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2020年01月12日18:56

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去年9月に書いた記事です。

政治風刺画をめぐる議論

 私は今年6月に米国で車を運転している時にラジオで「ニューヨークタイムズ紙(NYT)が政治に関する風刺画を一切掲載しないことを決めた」というニュースを聞いて、ショックを受けた。
 同紙は今年4月に、イスラエルのネタニヤフ首相の顔を持つダックスフントが、目の不自由なトランプの盲導犬になっている風刺画を掲載した。サングラスをかけたトランプはユダヤ人がかぶるキッパという丸い帽子をかぶっており、ダックスフントの首にはイスラエルの象徴であるダビデの星がぶら下がっている。この風刺画については、ユダヤ人らから「反ユダヤ的だ」として強い批判の声が上がった。NYTは謝罪しただけではなく、7月1日以降、政治に関する風刺画の掲載をやめることを明らかにした。
 欧米では、これまで新聞や雑誌の中で政治家に関する風刺画は重要な役割を果たしてきた。笑いによってチクリと政治家を攻撃する風刺画を楽しみにしている読者も少なくない。特に英国のニュース週刊誌「エコノミスト」の風刺画は非常に鋭い内容を持っており、素晴らしい。1万字の文章よりも、1枚の絵の方が問題の本質を的確に伝えることもある。これが政治風刺画の強みである。
 それだけに、NYTの決定には驚かされたというメディア関係者が多い。ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)に政治風刺画を掲載しているA・グレーザー氏とH・レンツ氏は、「NYTの決定は、メディアの自己検閲であり、新聞社がの表現手段の一部を自分で減らすことを意味する」と指摘するとともに、「NYTは政治的風刺画を完全にやめるのではなく、質の悪い風刺画を掲載しないようにするべきだった」と述べている。
 2015年にはイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したフランスの雑誌「シャルリ・エブド」の編集部が武装した過激イスラム主義者に襲撃され、編集長やイラストレーターら11人が射殺されるという悲惨な事件があった。この時には多くの市民が表現の自由を守るよう要求し、パリで抗議デモを行った。同誌の風刺画にはかなり悪趣味な物が多いが、表現の自由を暴力で封じることは危険だ。雑誌は今も発行されている。
 新聞や雑誌が「ポリティカル・コレクトネス(政治的な行儀の良さ)」を追い求めるあまり自らの牙を抜くとしたら、メディアの自殺行為にも等しいのではないだろうか。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de
 

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