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2019年12月03日05:05

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Presentation

2015年に発表した原稿です。
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講演とハプニング

 私はドイツに25年間住んでいるが、この間にフリージャーナリストとして、日本や欧州でドイツの政治や経済、社会についての講演を68回行った。300人の聴衆を前にしても緊張しなくなったが、講演には、想定外の事態がつきものである。
 先日、ミュンヘンの大学でドイツ語の講演をした。私は日本語の講演には、原稿を使わない。しかしドイツ語は母国語ではないので、これまではドイツ語で講演をする場合には、原稿を用意していた。しかし、ドイツの講演者で原稿を棒読みする人は、あまりいない。何か新しいことにチャレンジしてみたかった。
 もうこの国で25年間も働いているのだから、そろそろ原稿を読むのはやめようよと自分に言い聞かせた。そこで今回のドイツ語の講演では、パワーポイントの画面を見ながら、しゃべることにした。他の人々の講演が終わって、私の番になった。すると、大学側の用意したノートブック型PCが突然真っ黒になり、画面に何も映らなくなった。私が準備していたドイツ語のパワーポイントが映らないのだ。
 技術者たちがPCを直すべく右往左往している。しかし、お客さんたちは私の話を待っており、時間だけが過ぎていく。そこで、私は頭に入っている内容をドイツ語で話し始めた。講演の直前に、内容を手書きで箇条書きにまとめておいたのが、役立った。持ち時間の30分はあっという間に過ぎた。
 PCが直って、私のパワーポイントが画面に映し出された時には、私が言いたいことは、ほぼ全て言い終わっていた。このように、機械は時々ストライキをする。停電もいつ起こるかわからない。パワーポイントに頼ってはならない。講演をする時には、何も見なくても話をできるくらいの、入念な準備が欠かせない。 
 もう一つ、ドイツ語など外国語で講演を行う時に最も重要なことは、度胸と図々しさである。「この問題については、自分が一番良く知っている」という自信を持つことが、聴衆を納得させる上で欠かせない。特にドイツ人は、講演の最中にも「それは、でたらめだ」などと平気で声を上げるから、それに対抗できる胆力が必要である。さらにドイツでは講演の後に鋭い質問が沢山出るので、原稿だけに頼っていると、質問に十分答えられない。私は今でも、質疑応答の時間に、ドイツ語の口頭試験を受けているような気分になる時がある。



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