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2019年09月26日12:40

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Labor productivity

2年前に書いた原稿ですが、今も通用します。
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きちんと休むドイツの中小企業
私は27年前からドイツで働いているが、日独経済の最も大きな違いは、働き方と労働生産性だと思っている。この国の全ての企業は、法律によって労働時間や休暇に関する厳しい規制の下に置かれており、中小企業といえども例外はあり得ない。
*1日に10時間を超える労働は禁止
ドイツは世界有数の時短大国だ。OECDによると、ドイツの労働者1人あたりの2015年の年間労働時間は、1371時間で、日本(1719時間)よりも約20%短い。ドイツ人が毎年働く時間は、日本人よりも348時間短いことになる。
ドイツの労働時間が日本よりも大幅に短い最大の理由は、法律による労働時間の規制が徹底していることだ。ドイツでは、1日あたり10時間を超える労働が禁止されている。1日10時間という上限については例外はあり得ず、「繁忙期だから」とか、「客からの注文が急に増えたから」という言い訳は通用しない。消防士や病院の医長など限られた職種を除けば、三六協定のような例外規定もない。
労働時間の監視は、事業所監督局(Gewerbeaufsicht)という役所が行う。事業所監督局は、時折抜き打ちで、企業の社員の労働時間の実態を検査する。その結果、企業が社員を組織的に毎日10時間以上働かせていることがわかった場合、事業所監督局は、企業に対して最高1万5000ユーロ(195万円・1ユーロ=130円換算)の罰金を科すことができる。実際に長時間労働のために罰金の支払い命令を受ける企業や病院は、後を絶たない。
罰金の支払い命令を受けた企業は、長時間労働をさせていた部長や課長にポケットマネーで罰金を払わせることもある。したがって、ドイツ企業の管理職たちは、どんなに忙しい時でも、部下の1日の労働時間が10時間を超えないように注意しなくてはならない。
またドイツ企業では、事業所評議会(企業別の組合)が承認しない限り、残業を命じることはできない上、残業代は非常に高い。これも企業が時間外労働を極力避けようとする理由の1つだ。
ちなみに、OECDの統計によると、2015年のドイツの労働生産性(労働者1人が1時間あたりに生むGDP)は、日本よりも46%高くなっているが、その最大の理由はドイツの労働時間が日本よりも大幅に短いことである。
*ドイツの有給休暇取得率は100%
またドイツは世界で最も休暇日数が長い国でもある。1963年に施行された「連邦休暇法」によると、企業経営者は社員に毎年最低24日間の有給休暇を与えなくてならない。だが実際には、今日ではドイツの大半の企業が社員に毎年30日間の有給休暇を与えている。(有給休暇の日数が33日の企業もある)これに加えて、残業時間を1年間に10日間まで代休によって消化することを許している企業も多い。つまり、多くの企業では約40日間の有給休暇が与えられていることになる。
OECDは、2016年12月に発表した統計の中で、各国の法律で定められた最低有給休暇の日数、法定ではないが大半の企業が認めている有給休暇の日数と、祝日の数を比較している。ドイツの大半の企業が認めている有給休暇(30日)と祝日(12日)を足すと、42日となり世界最高。日本では法律が定める有給休暇(10日)と祝日(16日)を足すと、26日間であり、ドイツに大きく水を開けられている。
さらに日独の大きな違いを浮き彫りにするのが、有給休暇の取得率だ。OECDは、有給休暇取得率に関する統計を発表していない。そこであちこちを探した結果、旅行会社エクスペディア・ジャパンが、毎年有給休暇の取得率の国際比較を発表していることに気づいた。
同社が2016年12月に発表した調査内容によると、2016年の日本の有給休暇取得率は前年よりも10ポイント下がって、50%。これは、同社が調査した12ヶ国の中で最低である。厚生労働省の「就労条件総合調査」を見ても、日本の勤労者の2014年の有給休暇取得率は、平均47.6%。ドイツの半分以下である。この調査によると有給休暇取得率は、1993年の56.1%を頂点として、年々下がる一方だ。
*「休暇は当然の権利」という社会的合意が存在
ドイツの有給休暇取得率は、エクスペディアの統計に含まれていない。しかし私がこの国に27年間住んで様々な企業を観察した結果から言うと、ドイツ企業では管理職を除く平社員は、30日間の有給休暇を100%消化するのが常識だ。有給休暇を全て取らないと、上司から「なぜ全部消化しないのだ」と問い質される会社もある。
部下の中に、有給休暇を完全に消化しない人がいると、管理職は、組合から「なぜあなたの課には、有給休暇を100%消化しない社員がいるのか。あなたの人事管理のやり方が悪いので、休みを取りにくくなっているのではないか」と追及されるかもしれない。したがって、管理職は上司や組合から白い目で見られたくないので、部下に対して、有給休暇を100%取ることを事実上義務付けている。
つまりドイツの平社員は、30日間の有給休暇を完全に消化しなくてはならない。日本人の我々の目から見ると、「休暇を取らなくてはならない」というのは、なんと幸せなことだろうか。しかも、毎年30日、つまり6週間である。
ドイツでは企業、そして社会全体で「休暇を全部取るのは、労働者の当然の権利」という考え方が定着している。このため、顧客からの問い合わせなどがあった時に、自分の代わりに答えてくれる同僚を指定しておけば、2〜3週間の休暇を取ることには何の問題もない。全員が交代で1年間に約30日間の有給休暇を完全に消化するので、ねたみ・そねみはないし、お土産を買ってきて同僚に配る必要もない。
さらに、ドイツの顧客は、取引先に電話した時に担当者が3週間の休暇を取っていても、怒らない。他の社員が、自分の問い合わせにきちんと答えてくれれば、満足する。ドイツでは日本と異なり、仕事が人ではなく、会社についているのだ。ドイツ人は仕事を1人で抱え込まず、他の社員と共有する。大半の企業はサーバーに共有ファイルを持ち、誰でも顧客や契約についてのファイルを見ることができる。こうすれば、担当者が長期休暇を取っても他の社員が、顧客からの問い合わせに対応することができる。
顧客自身も2〜3週間の休暇を取るので、取引先の担当者が長期休暇を取っていても、目くじらを立てることはない。誰もがまとまった休暇を取るには、法律改正だけでは不十分。「誰もが休暇を取る権利がある」という社会的な合意が極めて重要だ。
*中小企業はドイツ経済の屋台骨
 さて日本と同じく、ドイツでも中小企業は重要な役割を果たしている。ドイツでは、従業員数が500人未満かつ年間売上高が5000万ユーロ(6億5000万円・1ユーロ=130円換算)の企業が中小企業と定義されている。この国の約365万社の企業の内、99.6%が中小企業だ。日本では中小企業の定義が「従業員数が300人以下かつ資本金が3億円以下」となっており、ドイツとは異なるものの、企業数の約99%が中小企業である点は、同じである。
 これらの中小企業はドイツ語でミッテルシュタントと呼ばれるが、彼らはドイツの物づくり業界の中で極めて重要な役割を果たしている。彼らは、企業間取引(B2B取引)に特化するので、メディアや消費者には名前を知られていないことが多い。だが彼らは、半製品や特殊な部品などニッチ分野の製品に強い。この国のミッテルシュタントには、歯車、小型モーター、コネクター、パッキングなど他の企業が製造活動のために必要とする機械や部品に特化している企業が多い。ミッテルシュタントの強さの源は、イノベーション力が高いことだ。これらの企業は研究開発に多額の費用を注ぎ込み、特許申請にも熱心である。 
これらのミッテルシュタントの製品や部品は品質が高く、他社の部品で代替することが難しいので、他の企業がこの部品を入手できないと自社の製造活動に悪影響が出る。したがって顧客は安い値段で買い叩こうとはしない。こうすれば、ミッテルシュタントは激しい価格競争を避けることができる。高福祉国ドイツでは人件費が高いので、付加価値が高い製品、言い換えれば値段が高い製品に特化しないと、生き残ることが難しいのだ。ミッテルシュタントの中には、消費者やメディアには名前を知られていなくても、特殊な機械や部品などのニッチ市場では、全世界で50%以上のシェアを持つ企業が多い。こうした企業は「隠れたチャンピオン」とも呼ばれている。
* 中小企業も休暇・労働時間規定を厳守
だが冒頭でも述べたように、労働時間法や連邦休暇法はミッテルシュタントにも適用される。彼らも「1日の労働時間は10時間以内、社員には最低24日間の有給休暇を取らせる」という枠の中で競争しなくてはならない。
現在ドイツでは、輸出が好調であるために好景気が続いている。このため、日本と同じように人手不足が深刻だ。今年の第2・四半期にはITエンジニアなどを中心に、約110万人の人材が不足した。欧州連合統計局によると、ドイツの7月の失業率は3.7%と、EU域内で二番目の低さだ。仮にある企業が、社員に法律で定められた有給休暇を取らせず、社員を毎日10時間以上働かせていたことがメディアによって報じられると、その企業には優秀な人材が集まらなくなる。またドイツでは日本よりも雇用の流動性が高く、求人も豊富なので、労働条件に不満を持つ人は、容易に他社に移ることができる。つまり中小企業も労働時間や休暇についての規定を厳守せざるを得ない。
近年ドイツの大手企業では、魅力的な労働条件を提示することによって、優秀な人材を集めようとする傾向がある。たとえば給料の20%減額や、ボーナスのカットを受け入れる代わりに、通常の30日の有給休暇に加えて、3ヶ月の有給休暇を与えられる「サバティカル休暇」や、1週間の内、決まった曜日には自宅のPCから会社のサーバーにログインして勤務する「ホームオフィス制度」などを採用する企業が増えつつある。
*中小企業の「柔軟な労働時間モデル」
ドイツの企業は、サバティカル休暇や育児休暇を取っている社員のポストを、新しい社員で埋めることはできない。その社員の休暇が終わったら、元のポストに戻れることを保証しなくてはならない。社員数が多い大企業では、休んでいる社員の業務を他の社員が引き継ぐことができるが、ミッテルシュタントでは社員数が少ないので、人の手当てが厳しくなる。
このためドイツのミッテルシュタントは、受注量に応じて労働時間を柔軟に変化させるモデルを採用している。ドイツ企業で働く社員は、全員が雇用契約書を持っているので、労働時間を変更するには、雇用契約書の変更が必要になる。
たとえば工作機械メーカー・トルンプでは、1週間の所定労働時間は40時間だが、経営者と事業所評議会(企業別の組合)は、繁忙期に1週間あたり最高43.5時間まで働けるように雇用契約書の内容を変更した。(逆に受注量が少ない時には、社員は1週間あたり最高2日まで、有給休暇以外の休日を取ることができる。トルンプは現在では全世界に1万人を超える社員を持つメーカーだが、1923年に創業した時には、3人のエンジニアからなるミニ企業だった。
いささか旧聞に属するが、企業コンサルタントのグラント・ソーントン社は、2008年に、各国の中小企業の内、労働時間や勤務地について柔軟性が高いモデルを提供している企業の比率に関する調査を行ったことがある。
 この調査によると、ドイツでは、労働時間や勤務地について柔軟性が高いモデルを提供している中小企業の比率が、90%と世界で最も高かった。第2位はニュージーランド(86%)、第3位はデンマーク(84%)で、日本では29%とドイツに比べて大幅に低かった。つまり、ドイツの中小企業は法律の枠内で、労働時間の柔軟性を高めることによって、残業代の支払いを避け、社員のワーク・ライフ・バランスをも確保しようとしているのだ。
 ドイツの若いエンジニアの間では、家族的な雰囲気が強く、大企業ほど官僚主義がはびこっていないという理由で、ミッテルシュタントの人気が高い。
 ミッテルシュタントは今後も労働時間や休暇制度に様々な工夫を加えることによって、優秀な人材を確保しようとするだろう。
労働者1人あたりの年間労働時間(2015年)
資料・OECD
単位 時間
メキシコ   2246
韓国     2113
ギリシャ   2042
ロシア    1978
ポルトガル  1868
米国     1790
OECD平均 1766
イタリア   1725
日本     1719
カナダ    1706
スペイン   1691
英国     1674
スイス    1590
フランス   1482
ドイツ    1371
国民1人あたりのGDP(2015年)
資料・OECD〈2017年5月12日にダウンロードしたデータ〉
単位 ドル〈2017年5月の購買力平価を使用〉
ルクセンブルク 102,131
アイルランド  68,481
スイス     62,450
ノルウェー   62,025
米国      56,066
オランダ     49,570
オーストリア   49,440
デンマーク    48,994
ドイツ      47,999
スウェーデン   47,823
カナダ      44,201
英国       41,779
ユーロ圏平均   41,136
OECD平均   41,039
フランス     41,005
日本       40,737
EU平均     38,676
イタリア     37,255
スペイン     34,727
韓国       34,570
中国 14,388
タイトル「ドイツの労働生産性は、日本よりも約46%多い」
労働生産性=労働者1人あたりが、1時間ごとに生み出すGDP(2015年)
資料・OECD (2017年5月12日にダウンロードした数字)
単位 ドル 〈2017年5月の購買力平価を使用〉erledigt
ルクセンブルク      95.0
アイルランド       91.8
ノルウェー        82.3
ベルギー         72.1
デンマーク        69.7
米国           68.3
フランス         67.6
オランダ         67.1
ドイツ          66.6
スイス          65.6
ユーロ圏平均       59.0
イタリア         53.6
EU平均  52.8
英国  52.4
スペイン         51.3
OECD平均       51.1
カナダ  50.8
日本           45.5
ポルトガル        36.0
韓国           31.9
メキシコ         20.1
タイトル「ドイツ人が1年間に休む日数は、世界で最も多い」
資料・OECD(2016年12月)
法律が定める最低有給休暇日数、もしくは大半の企業が認めている有給休暇の日数に、祝日を足した合計。
ドイツ 42日
スロバキア 40日
デンマーク 39日
チェコ 38日
オーストリア 38日
英国 37日
フランス 36日
スペイン 36日
スウェーデン 36日
イタリア 35日
ポルトガル 34日
オランダ 34日
ポーランド 32日
ギリシャ 31日
ベルギー 30日
韓国 30日
スイス 29日
日本 26日
米国 10日
タイトル「非常に低い日本の有給休暇取得率」
資料・エクスペディア・ジャパン(2016年12月)
(同社の統計にはドイツは含まれていないので、筆者がドイツを加えた)
世界主要国の有給休暇取得率
ドイツ 100%
ブラジル 100%
フランス 100%
スペイン 100%
オーストリア 100%
香港 100%
イタリア 83%
米国 80%
メキシコ 80%
シンガポール 78%
インド 71%
韓国 53%
日本 50%
折れ線グラフにして下さい。
日本の有給休暇取得率の推移
資料・エクスペディア・ジャパン(2016年12月)
2008年 56%
2009年 53%
2010年 56%
2011年 45%
2012年 38%
2013年 39%
2014年 50%
2015年 60%
2016年 50%
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