mixiユーザー(id:6002189)

2019年03月18日14:16

398 view

米国・軍縮条約離脱の衝撃


 2014年のロシアによるクリミヤ半島併合以来、欧州では東西冷戦の時代のような重苦しい雰囲気が漂っているが、今年2月1日に米国が中距離核戦力全廃条約(INF条約)からの離脱をロシアに通告したことは、その感をさらに強くした。
 1987年に米ソが調印したINF条約は、射程500〜5500kmの地上発射型の核弾頭付きミサイルの保有を禁じている。米国はすでに2014年、つまりオバマ政権の時代に「ロシアは射程2500kmの地上発射型巡航ミサイル・9M729の実験を行った」と発表していた。
 これに対しロシア側は「9M729ミサイルの射程は480kmであり、INF条約には違反していない」と反論している。
 この条約には1980年代の米ソ間の雪解けの象徴という歴史的なシンボルという意味はあったが、核軍縮の実体面では抜け穴も多かった。
 最大の抜け穴は、INF条約が潜水艦や航空機から発射される巡航ミサイルを対象としていないことだ。つまり地上発射式のミサイルは禁止されているのに、空や海から発射される中距離核ミサイルは禁止されていない。さらにロシアは、INF条約の対象外のミサイルの配備を着々と進めている。たとえばロシア軍は2018年1月に、バルト海に面したカリーニングラードに地対地弾道ミサイル・イスカンデル(SS―26)を配備した。核弾頭も搭載できる。このミサイルはベルリンにも到達できるが、射程が500km未満なのでINF条約の適用外となっている。もう一つ米国にとって不都合な点は、INF条約が中国を対象としていないことだ。中国が地上発射型の中距離核ミサイルを配備できるのに、米国が手を縛られているのは不利とトランプ政権は判断したのだろう。
 それにしても米国がINF条約を離脱することの政治的なシグナルは大きい。1980年代にレーガン大統領(当時)は、「欧州では限定的な核戦争があり得る」と発言して西ドイツ市民に強い衝撃を与えたが、INF条約の消滅は欧州の時計の針がそのような時代に戻ることを示す。
 さらに2021年には、米ロ間の新戦略兵器削減条約(通称・新START)の期限が切れるが、ロシアは新STARTの延長を拒否するかもしれない。この場合、米ロは1960年代以来初めて、核兵器の廃棄や削減に関する条約を全く持たない状態となる。ベルリンの壁崩壊から今年は30年目だが、欧州に「平和の配当」が与えられた時期は予想以上に短かった。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de


5 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する