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2019年02月26日14:29

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原油高騰時代の「聖なる休暇」


ドイツに赴任されて、この国の人々が休暇(Urlaub)をいかに重視しているかに気づかれた方は多いのではないだろうか。7月の声を聞くと、イタリア、オーストリアなどへ向かうアウトバーン(高速道路)で渋滞が目立ち始める。特にクロアチアの海岸へ通じるルートは、混み合う。太陽を求めるゲルマン民族の大移動である。
日本ではお盆の直前になると、帰省ラッシュで道路が大混雑する。だがドイツではバカンス客が一度に南へ向かって、アウトバーンで大渋滞が発生するのを防ぐために、学校の夏休みの始まる時期が、州ごとにずらしてある。たとえば、今年ノルトライン・ヴェストファーレン州では6月26日に夏期休暇が始まったが、バイエルンでは8月4日からである。カオス(混沌)を嫌い、秩序を愛するドイツ人らしい工夫である。
ドイツは、世界で最も休暇日数が多い国の一つである。1963年に施行された「勤労者の休暇に関する法律」によると、企業経営者は社員に、1年間に最低24日の休暇を取らせなくてはならない。だが実際のところ多くの企業が認めている休暇日数は、30日間にのぼる。また残業時間を、最高10日間前後の休暇によって消化することを許す企業も多い。日本と大きく異なる点は、上司が部下に休暇を完全に取るように強く求めることだ。特に大企業では、その傾向が強い。休暇を完全に消化していない部下が多いと、管理職は組合から批判されるからだ。管理職ではない平社員が、30日間の休暇を完全に取っても、周囲から白い目で見られることは全くない。
夏休み期間の穴埋めのために、アルバイトや派遣社員を雇う企業は、ほとんどない。人件費の増大を防ぐためだ。社員の間で休暇が重ならないように配慮する程度である。したがって、夏休みには顧客からの問い合わせに対する回答が、ふだんよりも遅れる傾向にある。ドイツ人の顧客も「担当者が休暇です」と言われれば、理解を示す。「この忙しい時に休暇を取るとは!」などと怒ることはない。
ドイツは統一後長い間、不況に苦しみ、成長率が低迷した。それでも政府や経済界は休暇日数の削減に踏み切らなかった。ドイツ人にとって休暇は、手を触れてはならない神聖な存在なのである。
多くのドイツ人はほぼ1年前から、次の年の休暇でどこへ行くかについて、考え始める。旅行代理店には、電話帳のように分厚い休暇プランの説明書が山積みになり、イタリア、モロッコ、チュニジア、モルジブなどでバカンスを過ごそうという市民を待っている。もちろんインターネットの世界も、飛行機、3食付のホテル、レンタカーなどをパッケージにした休暇プランで溢れている。トルコやクロアチア、ギリシャなどへ行き、あまり選り好みをしなければ、ドイツで生活するよりも安上がりだ。
だが現在、原油価格の高騰によって、インフレの暗雲が、世界を覆い始めている。「シュピーゲル」誌は、洞爺湖サミットに合わせて、エネルギー危機について大型特集記事を連載し始めた。その中で同誌は、「原油価格の急騰は、我々の生活の仕方をも変えるかもしれない」と予言している。実際、航空運賃やガソリン代が上昇し続ければ、人々のバカンスの過ごし方にも、変化が現れるかもしれない。ドイツ人のサラリーマンの中には、30日間の休暇の内、外国旅行は1週間だけにして、あとは家で大工仕事をしたり、近くでサイクリングをしたりして過ごすという、堅実派が増えている。格安バカンスが減ると、「家でのんびり」型のバカンスを楽しむ人が増えると思われる。


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