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2019年02月24日05:01

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独大手電力、褐炭採掘と森林伐採をめぐり敗訴、収益も悪化


欧州では、ESG経営の原則を軽視すると企業と株主に損害が生じる危険がある。そのことを示す事例がドイツで起きた。ドイツの大手電力RWEが褐炭採掘のために所有地で森林を伐採しようとしたところ裁判所によって差し止めを命じられ、業績が悪化したのだ。


*裁判所が環境団体に軍配

 問題の森林は、旧西独のケルンに近いハンバッハの森。RWEはこの自社所有地で2003年以来褐炭を採掘している。約5500ヘクタールの森の大半の木がすでに伐採されており、残っている森は200ヘクタールだけだった。RWEは州政府の許可を受けて、2018年10月から残っている森の半分についても伐採する予定だった。この森には2013年頃から環境団体の関係者ら約200人が木の上に小屋を作って住みこみ、伐採を妨害するためにバリケードを築いていた。RWEは伐採を始めるために、9月13日に警察の支援を受けて活動家たちの排除とバリケードの撤去を開始した。
 だが10月5日にミュンスター高等行政裁判所は、環境団体BUNDが差し止めを求めていた仮処分申請を認め、RWEに伐採の即時中止を命じたのだ。その理由は、BUNDが下級審であるケルン行政裁判所に起こした訴訟である。
 BUNDはケルン行政裁で伐採差し止めを求める仮処分申請と行政訴訟を提起していた。ケルン行政裁は仮処分申請は却下したものの、行政訴訟の審理は続いていた。BUNDはケルン行政裁の決定を不服として、ミュンスター高等行政裁に控訴していたのだ。
 ミュンスターの裁判官は「行政訴訟が継続しているのに、森林を伐採して既成事実を作り上げることは許されない。RWEは『ハンバッハの森の代替地がないので、この森林を伐採しなくては褐炭による火力発電事業に大きな悪影響が出る』と説明したが、その主張は説得力に欠ける」としてBUNDの差し止め申請を認めたのだ。

*伐採禁止により9月期決算が赤字に転落

 ケルンの裁判所での行政訴訟が結審するのは2020年頃になると予想されている。つまりRWEは、今後2年近くにわたりハンバッハの森の伐採を禁じられ、この地域で褐炭を採掘できなくなった。
 RWEのロルフ・マルティン・シュミッツCEOは「このような判決は全く予想していなかった。ハンバッハの森の伐採中止によって、2019年から営業利益が毎年100万〜200万ユーロ(1億3000万〜2億6000万円・1ユーロ=130円換算)減る」と述べている。
 RWEの敗訴を受けて同社の株価は10月5日に一時約9%下落したほか、同社の2018年1月〜9月期の業績は、6500万ユーロ(85億円)の赤字となった。同社は前年同期には22億ユーロの黒字を計上していた。つまりRWEの敗訴は、株主価値をも大きく毀損したのだ。
 同社の発電事業にも悪影響が出る。シュミッツ氏は「この判決のために、毎年の褐炭採掘量が1000万〜1500万トン減る。他の採掘地での採掘量を増やしても、ハンバッハからの採掘量を完全にカバーすることはできない。このことは電力価格の上昇につながる。ハンバッハの森林伐採を完全に中止した場合、ここで働いている4600人の従業員の内、1500人の雇用を削減しなくてはならない」と語っている。

*再エネ拡大プロジェクトに暗雲

 RWEの企業イメージにも深い傷がついた。同社は発電量の約37%を褐炭に依存している。石炭など全ての化石燃料を合わせると、その比率は78%に達する。再生可能エネルギーの比率は6%足らずと非常に低い。同社の一部の褐炭火力発電所については、EUや環境団体が「ポーランドやギリシャの発電所と並んで、温暖化ガスの排出量が欧州で最も多い」と批判してきた。ドイツの一部の市民は、CO2排出量が多い企業を「Klimakiller(気候を殺す者)」と呼ぶ。この綽名を与えられることは、ESGを重視する投資家から敬遠されることにつながりかねない。多額の資本を必要とする電力会社にとっては、投資家から忌避されることは企業の存続に関わる問題だ。
 このためRWEは2018年3月に子会社イノジーの配電・小売事業を大手電力エーオンに移管するとともに、エーオンとイノジーの再生可能エネルギー事業を本社に集中するという事業交換計画を発表。その狙いは、褐炭など化石燃料の比率を減らして再生可能エネルギーを拡大することだ。RWEは「エーオンとの事業交換後は、税引き前利益の60%を再生可能エネルギーによって生み出す。我が社は欧州最大のエコ電力事業者となる」と述べていた。

*収益最優先の論理は不十分

 だが森林伐採をめぐる論争は、RWEのエネルギー・ミックス改革プロジェクトにとって逆風となった。メディアは敗訴を大きく取り上げ、市民の心に「RWEは環境保護よりも収益を優先する企業だ」というイメージを刻み付けた。ハンバッハの森は脱褐炭を求める社会的運動のシンボルとなった。かつてゴアレーベンやヴァッカースドルフが脱原発運動の代名詞となったのと同じだ。環境団体関係者の間では「州政府の代表や学者が脱褐炭・石炭の期日について協議している最中に、RWEが褐炭採掘のために自然破壊を続けるのは理解できない」という声が強かった。
 当初RWEは「州政府も許可しているのだから自社所有地での伐採に問題はない。他の地域で植林も行っている」と主張し、環境団体の抗議を黙殺した。今回の事例は収益優先という企業の論理を貫くだけではESG経営を行うには不十分であることを浮き彫りにしている。
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