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2019年02月16日18:54

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ドイツ・花形記者の転落



 2018年12月19日・水曜日は、ドイツの報道界にとって暗黒の日となった。同国で最も大きな影響力を持つニュース週刊誌シュピーゲルで、重大な不祥事が発覚した。同誌の花形記者が、50本を超えるルポの内容を捏造していたことが明らかになったのだ。
 この日シュピーゲル編集部はネット上で、「クラース・レロティウス記者(33歳)が、米国やシリアに関する現地ルポで人物のコメントなどをでっち上げたことを認めた」と伝えた。
 捏造が明るみになったきっかけは、米国南部のメキシコ国境付近で自警団を組織した米国人に関するルポだった。メキシコ側で取材した同僚が、レロティウスの記事の細部に疑問を抱いて独自に調査。自警団のリーダーらが「レロティウスに会ったこともない」と語ったため、上司が記者を追及したところ捏造を認めた。彼は他のルポでも、登場人物の発言や行動などをでっち上げていた。つまり彼のルポはジャーナリズムではなく、ほとんど小説だった。
 レロティウスはドイツで最も人気があるスター記者だった。2010年からフリーランサーとして同誌に記事を書き、2017年に正社員になった。彼の外国に関するルポはドイツで4つのジャーナリスト賞を受けたほか、CNNからも表彰された。米国のフォーブス誌も、彼を欧州のメディア界で最も影響力がある30人の1人に選んでいた。レロティウスのリポートは確かに映画のシーンを見るように抒情的ですらあったが、大半は作り話だった。
 1947年創刊のシュピーゲルは、発行部数72万部。約660万人の読者を持ち、調査報道によって数々のスクープを放った。今回の捏造問題は言論界の大御所にとって創刊以来最悪の不祥事である。
 特に大きな問題は、シュピーゲルのチェック機構が機能不全を起こしたことだ。同誌は校閲部に60人の社員を配置し、事実のチェックが厳しいことで知られた。レロティウスのルポについて校閲部が不信感を抱いて問い合わせたこともあったが、「現地で聞いた」と記者が主張すれば、校閲部は信用せざるを得なかった。ジャーナリズムは信頼に基づく職業だが、メディアのチェック機構はレロティウスのような確信犯を防げなかった。シュピーゲル事件は、メディア全体の信用性に深い傷をつけた。
 「メディアは偽ニュースを流している」と主張してきたドイツのポピュリストたちの、拍手喝采が聞こえるような気がする。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de

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