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2018年12月10日04:20

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ジャーナリストという仕事


 3年前にシリアで武装勢力に拉致されたフリージャーナリストの安田純平氏が、10月23日に解放されて、日本に帰国した。彼が3年間に及ぶ監禁の後に生還したことは、喜ぶべきことである。シリアやイラクで武装勢力に拉致されて処刑された外国人は少なくない。そう考えると彼は九死に一生を得たというべきだろう。
 彼が監禁されていたイドリブ県は、シリアのアサド政権に対抗する武装勢力の最後の拠点である。この地域ではアサド政権による総攻撃が、刻一刻と迫っている。こうした軍事情勢の変化も、武装勢力が人質を解放する理由の一つになったのかもしれない。日本政府は認めないと思うが、アラブ諸国を通じて水面下の交渉が行われていたのだろう。私は人命を救うためには、身代金を払う意味はあると考えている。
 ところで日本では紛争地域で拉致されていたジャーナリストが解放されて帰国すると「自己責任で危険な地域へ行ったのだから、政府などに迷惑をかけるべきではない」と批判する声がしばしば高まる。安田氏に対しても「まず世間に謝れ」と言わんばかりのコメントがネットの世界で飛び交っている。
 私は、ジャーナリストが取材によって現地で起きていることを伝えるためには、戦場など危険な地域へ行くことはごく当然のことだと思っている。大手の新聞や放送局が伝えない事実を報道するのは、しばしばフリージャーナリストの役目だ。新聞社やテレビ局は危険が高まると正社員の記者やカメラマンを撤退させて、フリージャーナリストだけを現地に残すこともある。
 読者や視聴者は、フリージャーナリストたちがいなかったら、現場の状況について知ることができない。報道関係者など客観的に現地の情勢を伝える人がいなくなったら、独裁者が民間人の虐殺や化学兵器の使用など国際法に違反する行為を行っても、外部に伝わらない。独裁者が最も恐れるのは「事実」を国際世論が知ることだ。
 したがってフリージャーナリストに対して「政府に迷惑をかけないために、危険な地域に行くな」と言うのは、言論人に「仕事をやめろ」と命じるようなものであり、本末転倒である。外国で苦境に陥った日本人を救おうとするのは、政府の任務だ。他国政府も同様の対応をしている。
 ちなみにドイツや米国では、紛争地域で拉致されたジャーナリストが生還した時に、日本のように社会から「自己責任論」の集中砲火を浴びることはない。それは政府と国民がジャーナリストの仕事の重要性を理解しているからだ。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de
 

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