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2018年12月06日04:53

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フランス・シャツメーカーの誇り


 パリ・バンドーム広場の一角に、シャルベというワイシャツ専門店がある。1838年にクリストフル・シャルベという仕立て屋が開いた、現存する世界最古のシャツ店である。彼の父親はフランスの皇帝ナポレオンの服を仕立てる職人だった。
 シャルベのシャツは1858年にパリ万国博覧会にも出展され、欧州の王侯貴族、富豪たちの間で人気の的となった。この店の製品は1889年のパリ万博で金メダルを受賞している。19世紀のパリは欧州のシャツのメッカとなり、各国の富裕層がシャルベにシャツやブラウスを仕立てさせるために、パリを訪れた。
 現在のシャルベは、シャツの他、ネクタイやスカーフ、スーツ、パジャマも売っている。興味深いのは、シャルベが今なおフランス国内で製品を作っていることだ。シャツの既製品はパリ郊外の工房で作っているが、全て手作りのネクタイは今もパリ本店の上層階で作られている。フランスの人件費の高さを考えるとこれは驚くべきことだ。グルーバル化が進んだ今日では、大半の衣類メーカーがコストを下げるためにアジアや東欧で製造している。イタリアのアルマーニですら、中国やトルコで製品を作っている。そう考えると、シャルベが品質を維持するためにフランス国内での製造にこだわっていることには、執念のような物を感じる。
 シャルベが最も誇りとするのは、4階のオーダーメード・シャツのフロアだ。客は古風なエレベーターでここに案内され、何百種類もの布地、襟のパターンの中から体形に合ったシャツを作らせることができる。オーダーメードのシャツやスーツも本店で仕立てられている。
 この店は時代を問わずにセレブたちの間での人気が高い。フランスのドゴール、ポンピドー、ミッテラン、シラク、サルコジら歴代の大統領がシャルベでシャツを作らせた。またフランスのマネやマチス、ドビュッシー、プルースト、コクトー、ボードレールなどの芸術家、作家らもこの店の客だった。英国のチャーチル首相、ウェールズ公(チャールズ)、米国のケネディ、カーター、レーガン、オバマ大統領らもこの店のシャツを愛用した。
 今日では多くのスタートアップ企業の社長たちは、Tシャツで仕事をしており洋服にはほとんど注意を払わない。シャルベのような老舗にとっては、逆風である。ブランドにこだわるシャルベ路線は、グローバル化の嵐の中であと何年生き残れるだろうか。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de
 


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