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2018年11月09日04:59

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移民と欧州社会


 ロンドンは様々な国籍、人種の市民が暮らす坩堝(るつぼ)だ。バスや地下鉄に乗ると、ブロンドの髪を風になびかせる白人だけではなく頭をスカーフで覆ったイスラム教徒、頭にターバンを巻いたインド人、アフリカやカリブ海からの黒人、中国人、日本人など様々な人種を見かける。かつて英国が世界各地に植民地を持っていたことから、大英帝国の首都ロンドンは世界での有数の多民族都市になった。東西冷戦の終了後には、ポーランドやハンガリーなどからの出稼ぎ移民も増えた。この町で不動産を買い漁るロシアの富裕層も目立つ。
 私が住んでいるミュンヘンでも、東京に比べるとアフリカやアラブ諸国からの移民を見ることは多いが、国際都市ロンドンの多種多様さに比べると足下にも及ばない。
 ロンドンにとってはこの多民族性、国際性が活力の源泉の一つとなってきた。ロンドンの金融街シティは英国の国内総生産(GDP)に大きく貢献しているが、金融サービス業は国境のないグローバル・ビジネスである。ロンドンは、欧州の中で最もニューヨークに似た町である。したがって2016年のEU離脱に関する国民投票の際にも、ロンドンの有権者の過半数がBREXITに反対した。特に若年層にとっては、英国がEUに加盟していることは至極当然のことだった。
 しかしロンドンが大都市であるとはいえ、数の上では国全体の都市の1つにすぎない。ロンドン以外の多くの地方都市では、BREXIT賛成派が半数を上回ったのである。地方都市では多くの市民が「移民は英国人から仕事を奪う。移民は英国の社会保障制度を食い物にしている」という、右派ポピュリストたちの主張を信じたのである。世界各国で強まっているナショナリズムと孤立主義の波が、英国にも到達したのだ。
 この結果、英国は国際都市ロンドンの市民の大半が望まない方向に、ずるずると引きずられつつあるのだ、欧州大陸からの移民と結婚している英国人の間では、「他のEU諸国の国籍を取っておこう」という人も増えつつある。
 2019年のBREXITによって、ロンドンや英国が突然変わることはあり得ない。しかしその影響は中長期的に現れるだろう。EU離脱という歴史的な大変化が、多民族・多文化社会ロンドンの活力を削がないことを私は望んでいる。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de


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