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2018年05月14日00:59

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おもてなしがない国


 先日ハイデルベルク大学でインダストリー4.0についての講演を行うために、早朝にミュンヘン駅に行った。ネット上で予約していたのは、9号車。しかしプラットフォームに入ってきた列車には、9号車がない。駅員に聞くと、「空いている席に座れ」と言う。これでは追加料金を払って、席を予約する意味がない。
 仕方なく適当に列車に乗り込むと、空気が氷のように冷たい。他の乗客も、毛糸の帽子、コートやマフラー姿のまま座っている。ブーツの中の足先が、冷え切った。駅員に尋ねると、「暖房装置が壊れているので、他の車両に移って下さい」と言う。謝罪の言葉もない。
 私が学生の頃、ドイツ鉄道は国営だった。当時は列車の遅れが少なく、予約した車両が見つからないなどということは、滅多になかった。現在ドイツ鉄道は民営化されているのだが、列車の遅れや車両番号の混乱などは、日常茶飯事だ。
 したがって、私はなるべく乗り換えのない直通列車を選ぶようにしている。列車が遅れて、次の列車に乗れないことがしばしばあるからだ。ことほど左様に、ドイツではサービスが悪い。ここでは、お客様は神様ではない。
 ハイデルベルクでの講演の後、主催者や学生たちと居酒屋へ行った。ドイツではビールジョッキの下に厚紙のコースターを置く。この居酒屋のドイツ人のウエイトレスは、客にコースターを手裏剣のように投げて寄こした。参加者の日本人の1人は、「ドイツに5年住んでいるが、こうした態度には、いまだに慣れない。客に対して最低の思いやりがない」と憤慨した。これに対し、私は全く腹が立たなかった。「ドイツにおもてなしはない」と割り切っているからだ。以前ドイツ人の会社員が、客に自分の名刺を手渡さずに、投げているのを見た。あるレストランで、100ユーロ紙幣で払おうとしたら、ウエイトレスから「こんな高額紙幣で払うなんて!」と怒られた。食事の後にウエイトレスから「ちょっと皿を手渡してくれないか」と頼まれたこともある。したがって、私の頭の中には「コースターを投げるくらい、ドイツ人の態度としては、ごく当たり前だ」という考え方が染みついている。私だけではなく、ドイツに20年以上住んでいる他の日本人も、腹を立ててはいなかった。
 ドイツの悪いサービスに慣れると、利点もある。それは、日本へ行った時のサービスに深く感動できるということだ。おもてなし大国、万歳。
(熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de
 




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