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2017年08月05日18:17

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さらば英国


私の知人のX氏は英国人。大学教授としてミュンヘン大学で教鞭をとり、40年以上ドイツに住んでいる。ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語に堪能なコスモポリタンのX氏は、国粋主義や右派ポピュリズムが大嫌い。BREXITについても、「受け入れがたい暴挙だ」と憤慨している。
X氏は今年5月にドイツの市民権を申請した。彼はその理由を、「今日の英国は、私が以前知っていた英国ではない。このような国にもはや共感することはできない」と説明した。現在ドイツでは、EU加盟国の市民は滞在許可なしに、何年でも住むことができる。しかし2019年に英国がEUを離脱した場合、X氏は改めてドイツに滞在許可を申請しなくてはならなくなる。またドイツは、EU加盟国からの市民がドイツ国籍を希望する場合、出身国のパスポートを保持することを認めている。だがBREXIT後は、英国人に二重国籍が許されるかどうかわからない。
帰化申請書には、「あなたは生まれた国の国籍を捨てる準備がありますか?」という質問がある。X氏は、何のためらいもなく「捨てる準備がある」と答えた。彼はそれほどまでに、英国の有権者のBREXITへの決定に失望しているのだ。ドイツ国籍を取得するには、8年間以上税金と社会保険料を納め、この間犯罪をおかしていないことが条件。語学とドイツの歴史・地理などに関する試験も難なく合格した。
ドイツでは、X氏のようにこの国のパスポートを取ろうとする英国人が増えている。ミュンヘンでは、2016年6月の英国での国民投票から今年1月までに、144人の英国人がドイツに帰化するための申請を行った。これは2015年6月からの同時期に比べて、6倍の増加だ。
X氏は、去年BREXITに関する国民投票に参加することを許されなかった。英国政府は、国外に5年以上住んでいる英国人には、投票権を認めない。X氏は、「ドイツに40年以上住んでいる私は、英国政府にとっては裏切り者というわけだ」とつぶやいた。
別の英国人の知人Y氏はロンドン郊外に住んでいる。妻はイタリア人で、BREXIT後は英国への滞在許可を取らなくてはならない。英国への帰化には、多額の費用がかかる上、手続きも複雑。このためY氏は、イタリア国籍の取得を検討している。そうすれば、万一妻がイタリアに戻ると言い出した時に、自分もすぐにイタリアに定住できるからだ。BREXITは、多くの市民の人生にも大きな影を落としつつあるのだ。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de



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