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2016年12月30日02:57

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「トランプ大統領」の衝撃(下)


 米国の知識階層だけではなく、ドイツなど欧州諸国でも「クリントン氏が大統領になってほしい」と望む人が多かった。その理由の一つは、トランプ氏の歯に衣を着せぬ非常識な言動である。
彼は去年夏に最初の政策提言書を発表したが、その中で米国に不法滞在している1100万人の外国人を国外退去処分にすることや、メキシコからの不法入国を防止するために同国との間に壁を建設し、その費用をメキシコ政府に負担させることを提案した。また彼は、同年10月に米国に滞在していたシリア難民の国外追放を求めたほか、シリア難民を受け入れたドイツのメルケル首相の決定について、「正気の沙汰ではない。ドイツでは暴動が起こるだろう」とコメントした。
多くのジャーナリスト、世論調査機関は「このような非常識な人物が大統領になることはないだろう」と思っていた。しかし彼らは、米国の庶民の不満を過小評価していた。「全てにおいてまず米国人を優先する」というトランプの方針は、「メキシコからの不法移民によって職を奪われる」という不安を抱く低所得層からは、喝采を受けた。低所得層にとって、民主党のヒラリー・クリントン候補は、ワシントンの政治エリートの象徴だった。彼女は選挙運動に約5億ドルもの費用を投じたが、それでも人心を摑むことはできなかった。庶民は、政治の素人である一企業家をホワイトハウスに送り込むことによって、政治エリートたちに復讐したのである。「政界のアウトサイダー」が、戦略核ミサイルのボタンに手をかけることになった。
それにしても、白人の労働者たちが、ホテルビジネスなどで巨額の富を築いた高額所得者を、「自分たちの利益を代表してくれる希望の星」と見たことは、奇怪である。伝統的に米国の共和党は、社会保険などによって、国富を下層階級に対して再分配することを拒否する。社会保険制度を最小限にして、所得格差をあえて肯定し、「ウイナー・テークス・オール」つまり勝者が全てを手中に収める経済システムこそが、米国を強くした。従って、私はトランプが下層階級に手を差し伸べるとは到底思えない。それは企業の競争力を弱め、米国の自由放任型・市場経済の原則に反するからだ。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de


 



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