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2015年01月16日02:32

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クジラに最も近い陸の生物は何でしょうか (分子時計による検討)

 近縁の種間で,特定の遺伝子のDNAの塩基配列を調べたり,特定のタンパク質のアミノ酸配列を調べると,種間で違いが見られます。
 これは,共通の祖先から分かれた後に,それぞれの種で突然変異が起こったことによるもので,このようなDNAやタンパク質の変化を分子進化といいます。


 同じ系統の種間で,同一遺伝子の塩基配列の変化した数を比べると,その数(塩基配列の置換数)は2種が分かれてからの時間に比例して増える傾向が見られます。また,塩基配列だけでなく,タンパク質のアミノ酸配列についても同様の傾向が見られます。そのため,塩基配列やアミノ酸配列の変化の速度は分子時計とよばれ,2種が進化の過程で枝分かれした年代を探るための目安となり得のです。

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 表中の数字をみると,系統が離れるにつれて,アミノ酸配列の違いが大きくなっていない場合もあります。例えば,系統樹ではサメはヒトよりもコイに近いが,アミノ酸配列はコイとの違い(59.4%)よりもヒトとの違い(53.2%)の方が小さい。この理由として,系統樹は,利用する生物種の中のすべての組み合わせにおいて,アミノ酸配列の違いを算出した上で描かれていることや,単純にアミノ酸配列の違い(%)だけでなく,どのアミノ酸配列がどのように異なるかを考慮していることなどがあります。

 しかしまあ,おおむね系統的に距離があるほど,アミノ酸配列の差異は大きいと言うルールに間違いはないと言って良いでしょう。

さて,本日の本題。

鯨に最も近い陸棲の生物はいったい何でしょうか。

これ↓は伝統的な,考え方です。

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ここ↓に挙げたのは,鯨の祖先生物と考えられた古生物です。

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さて,専門的な話は省略しますが,SINEと呼ばれる遺伝子DNAの塩基配列に勝手に割りこむ
ウイルスのような存在(レトロポゾン)があります。

 似たようなお仲間のなかには,かってにDNAに割り込んだあげく,勝手に離脱してしまうものもいるのですが,このSINEは,好都合なことに一度割り込めば割り込んだままです。

 つまりすべての子孫の遺伝子にSINEが割り込んだ痕跡がのこるのです。


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鯨や陸棲生物の系統分類に,この性質を利用します。

結果がこれです。

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これが今回の結論です。

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 伝統的にはカバと豚が近縁,ウシとラクダが近縁,鯨は非常に早くに分岐した一群だったと考えられてきました。

実際には,なんと!鯨に最も近縁なのはカバ,豚とカバは単なる他人のそら似で,系統的にはかなり離れており,ウシとラクダも近縁ではないことが明らかになりました。


 
 20年ほど前に発表されたばかりの内容が,はやくも3年前から使われ始めている高校生物の教科書に載っています。

 高校生物の新規内容を積極的に取り込もうとする姿勢がよくわかりますね。



<まとめ> 形態や解剖学的特徴ではなく,アミノ酸配列の違いによって類縁関係を推定する利点

《1》 共通した形態がないため比較ができないほど系統的に離れた生物間でも。類縁関係を推定することができる。
《2》アミノ酸の置換は一定の頻度で起こるので,配列の違いにより祖先から分岐した年代を推定することができる。

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