mixiユーザー(id:59983232)

2020年08月01日15:28

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ふわふわを買った

ふわふわを買った。わたしはずっとこれが欲しかったんだと思った。外へ出られなくなり、家に閉じ込められ、行き場がなかった。大きな底のない穴か、大きな古い、顔のないぬいぐるみが欲しいと毎日思っていた。手に入れるための方法がなく、欲しいと思う先からあきらめていた。わたしは常にそうだ。
髪が伸びた。黒い髪ゴムを買った。髪ゴムには黒いふわふわした飾りがついている。安物だったから髪ゴムとしては使いものにならず、すぐ使えないものになった。買ったものをすぐ捨てるのが悲しく、しばらく机の上に置いていた。ふとしたときにふわふわしたところをさわったり握ったりするようになった。とくにいい素材というわけでもなく、ただふわふわしているだけのもの。気持ちいいけど安物だなあと思う、いい素材だったらもっとさわっていたくなるのだろう、戻れなくなるのだろう。
ふわふわをさわるたびに数本のふわふわが抜けるためボリュームがなくなってきてしまった。はじめは繊細だった一本一本のふわふわがかたまってきて、感触が変わってきた。年老いて生身に近づいてきたようで、最近はふわふわのうちがわにある骨のような、小動物の頭のような熱くやわらかい感触も感じられるようになってきた。こちらがさわるたびに消耗するふわふわ。それでも、握っても押し返してくることもなく、重たさもひっかかりもなく、他人にそんなことされても関係ないというような態度はずっと変わらない。ふわふわははじめからそうだった。淡々と消耗していく。わたしにさわられたり握られたりすることで消耗のしかたが深まっていき、どんな消耗をするかが方向付けられていく。わたしの手は油で汚れていて、そのためふわふわはわたしにさわられるたびにこわばりやかたまりという方法でわたしからの防御を強めた。わたしはふわふわの死を手にしていると思う。ふわふわにわたしを選ぶ術はなかった。でも、ふわふわの消耗はあくまでふわふわの消耗だ。いつもそこにいて、わたしがどうしようと淡々とそこにひたすらいて、心をひらかず何も言わず淡々と、わたしとは関係ないように生き続けるふわふわ。わたしはずっとこれが欲しかった。ふわふわはこわばりやかたまりをつよめ、ふわふわじゃなくなっていく。わたしに出会ったことも事故のひとつだとふわふわは受け止めているように思う。

#超短篇
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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月01日 15:32
    凄いですね
    僕もそのふわふわが欲しくなりました
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月03日 07:07
    私もです。ふわふわ欲しい〜ペンギン
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月05日 00:16
    先々週、私は自分が今通っているある場所の先生と禅問答のような会話をしました。
    その答えがこの文章の中にあるような気がしてなりません。

    この文章をお借りして先生に提示してみたくなりました。

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