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2022年04月26日09:43

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雑誌「汲古」を読み返しています

物置を整理していて出てきた雑誌「汲古」を読み返しています。
「汲古」は、学術出版の汲古書院が発行しているPR誌なのだが、コラム的な小論を掲載してくれていて、読んでいて楽しい。
私は昭和57年05月の創刊号から送っていただいているので、そんなに厚い本ではないのだか、けっこうたまっている。
ピックアップして感想など書いてみる。
創刊号の巻頭を飾るのは、「徳富氏の蒐書」と題する榎一雄氏の小論。
徳富氏とは、徳冨蘆花の兄であり、『國民新聞』を主宰し、『近世日本国民史』を著したことで知られ、蔵書家としても著名な徳富蘇峰(1863−1957)のことで、その蔵書たる成簣堂文庫は、石川武美記念図書館(旧お茶の水図書館)に所蔵されている。
創設した「主婦の友」社社長の石川武美(1887−1961)が、親交のあった徳富蘇峰からまとめて購入したもので、古典籍・古文書の総数は約10万冊におよび、値は30万円だったという。
この売却は、自身の老後の生活費捻出という面もあったが、以下のような条件を付けていたという。
〇コレクションをそのまま保存すること。
〇譲り渡した後でも、蘇峰は自由に利用できること。
今でも、自身の回収した古典籍や古文書を、管理のしっかりしている大学や国文学研究資料館などに寄託したり自由に利用できることを条件に売却したりする例があるが、その先駆けのような話だ。
蘇峰の収書は明治35〜36年頃からで、明治維新期や終戦直後のような、貴重書がまとめて市場に出る時期ではなかったが、九条家の売り立てがあったり、朝鮮が植民地化されたり中国が戦乱期だったりして、比較的貴重な本が手に入る条件もあったようだ。
榎一雄氏が取り上げていた話でちょっと面白いのは、蘇峰が購入した31の書店の領収書、数百枚が保存されていたということ。
領収書の保存では、明治12年に日本に寄港したスウェーデンの探検船ウェーガ号の船長ノルデンシュルドが日本で買い集めた本、1036点6千冊の領収書120枚があるのだそうだ。
これは、明治10年代の本の値段がわかる資料ということで、蘇峰のものは明治30年代後半からのものということになる。
今では値段を表示した古書目録は当然だが、10万を超す古典籍などは、いまだに入札で値段が決まる市場がある。

成簣堂文庫については以前、『瀛奎律髄』の版本調査で問い合わせたことがある。
当時のお茶の水図書館は女性専用などというジェンダー差別をしていて、一応丁寧な文面で所蔵してるかのお伺いと閲覧可能かを手紙で問い合わせたのだが、返事は無し。
記念切手を貼った返信用の封筒も入れておいたのに無視されたかと思っていたら、数か月後に葉書が届いた。
簡単な文面で、所蔵していないというものだった。
それが実はあったんですよね。
1467年頃出版された朝鮮の木版本で、同版は内閣文庫に林羅山の旧蔵書として伝わるものが国内にあるだけの珍しいも。
韓国の梨花女子大学で見せてくれと言ったら、貴重書だから駄目だと断られたやつ。
とにかく、無いというんだから見るのはあきらめていたけど、その話を明治大学の神鷹さんに話したら「理事長知っているから紹介してやろうか?」と言ってもらったり、調査に行った藤本幸夫先生から詳しく話を聞いたりできたんだので、見なくてもほぼ目的は達した。
この本、跋の後半部分が欠落していて、見せてくれていたら指摘してあげられたんだが、1992年に出版された「新修成簣堂文庫善本書目」(\86,650)で川瀬一馬氏が、欠落と知らずに跋を読んで解説していて、「おいおい…」状態なのが嘆かわしい。


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