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2020年03月26日22:51

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ドゥーチュィムニー「「若者=デマを信じている」説はどこから? "伝聞"で作られた世論」

 アメリカ大統領選挙が行われた2016年以降、沖縄の地元紙2紙である沖縄タイムスと琉球新報は、インターネット上のデマ・フェイクを沖縄の若者が信じている記事で指摘してきた。しかし、筆者が調査したところ、沖縄県知事選の投開票日の2018年9月30日まで、具体的な若者の姿はほとんど出てこなかった。フェイクニュースと若者を結びつける新聞言説はどのように広がっていったのか。
記事データベースから321件を抽出
筆者は、全国紙・地方紙の過去の掲載記事データベースである「Gサーチ」を利用し、関連する記事を抽出した。全ての記事を読み込み、時系列と内容を確認することで、沖縄の若者がデマやフェイクを信じているという言説が広がる経緯を追った。期間は2019年9月まで。
「沖縄 若者 デマ」の言葉が盛り込まれている記事は150件、「沖縄 若者 フェイク」は52件。沖縄の地元紙は、沖縄を記事中に使わないため、2紙では「若者 デマ」が80件、「若者 フェイク」は39件が該当した。合計321件(重複有)の全ての記事を読み込み、時系列と内容を分類、分析した。

記事の月別推移
記事の総数は、翁長雄志前知事の死去後にあった2018年9月30日の沖縄県知事選前後が最も多かった。
「若者=デマを信じている」の始まり
沖縄の若者がインターネット上のデマを信じていると初めて指摘したのは2016年3月。沖縄の基地問題に誤認記述があった高校教科書検定に関して、複数の大学教授がインタビューやコメントの中で言及を始めた。
 
「インターネット上のデマをうのみにする若者が多い」(経済学の教授)(2016年3月19日付、琉球新報)
「特に沖縄に関する記述はゆがめられた情報が県外で広く流布していることが多い。とりわけネット社会にその傾向が強く、若者世代ほど影響されやすい」(教育学の教授)(2016年3月20日付、沖縄タイムス)
根拠は、教授と学生のやりとりで、その後、新聞週間や主権者教育など、デマを信じる若者を問題視する形で毎月、新聞に取り上げられていった。
「インターネットで広まる『基地に反対している人はお金をもらっている』などの“デマ”を信じ、口にする学生を何度も見てきた。若者にデマが浸透する理由に『悲惨な沖縄戦』や『基地反対』などの沖縄の支配的言説に圧迫感がある」と分析。「ガス抜きとなるのがネット上のデマだ」(政治学の教授)(2016年8月7日付、琉球新報)
また、20代機動隊員が「土人」発言をしたことを受けて、沖縄出身の芥川賞作家が、「ネットを通して若い人の中で事実でないデマが広がっている社会が心配だ」(2016年11月6日付、沖縄タイムス)とコメントしている。
発言者は大学教授や作家が中心で、メディアを専門にしている研究者はいなかった。
大学教授の発言を中心に若者がフェイク ニュースを信じているという言説が広がっていったのは、 普段から接している学生以外に対象が向かなかった可能性がある。
デマを信じる若者が紙面に登場するまで1年7カ月
識者のコメントは出てくるものの、デマを信じる若者が初めて紙面に登場するのは、2017年10月。識者が指摘してから1年7カ月が経過していた。
 
地元紙の琉球新報が衆院選を前に沖縄の大学・高専生50人に聞き取り調査をし、対象学生のコメントの中の一つとして掲載。
「基地反対しているのは県外の人と外国人ばかりと思っていたが、授業で政治学を学び、冷やかし半分で辺野古に行ってみたら、沖縄のおじいとおばあしかいなかった。フェイクニュースの刷り込みは怖いと思った」(20歳)
その4カ月後、名護市長選当日の2018年2月4日、朝日新聞が初めてフェイクニュースを信じる若者のインタビューを掲載した。
もうひとつの地元紙・沖縄タイムスは2018年2月12日だった。
沖縄の若者がデマを信じているとの根拠は乏しかったものの、「伝聞」の状態でマスメディア が取り上げ続けたことで「本当」のこととして見なされていた。
作られていく世論
筆者は、読み込んだ全ての記事を(1)沖縄の若者がフェイクを信じていると直接言及した記事、(2)記者がフェイクを信じる若者を直接取材している記事、(3)関係あると読み取れる可能性のある記事ーなどに分類。沖縄の2紙、それ以外の全国紙・地方紙のそれぞれを時系列に分析した。

画像制作:Yahoo!ニュース
沖縄の2紙が「沖縄の若者がフェイクを信じている」(グラフ・青線)と言及した記事は、2016年をピークに減少した。一方で、2018年では「記者が事実関係の確認を取って、書いた記事」(グラフ・赤線)が増えた。

画像制作:Yahoo!ニュース
沖縄以外の全国紙・地方紙は、「沖縄の若者がフェイクを信じている」(グラフ・青線)と言及した記事が沖縄2紙の後を追うように、2017年から増加。裏取りをした記事は、前述の朝日新聞の1本のみだった。
地元紙が先行して報道したことで,ある程度の世論が作られ,沖縄 以外の全国紙・地方紙 も言及を始めた可能性がある。
ただ、「沖縄 若者 デマ フェイク」が盛り込まれた記事は のべ321件あったものの、全てが沖縄の若者とデマやフェイク直接的な繋がりが あると語られているわけではない。沖縄のフェイクニュースやデマの事例、若者がSNSの利用が高い、若者の新聞離れ、新聞が衰退しているなどが混在した記事は53本あり(グラフ・いずれも黄線)、「若者=フェイクニュース」という誤解が生まれやすかったのではないかと推測する。
重宝される専門家のコメント
一般的に、新聞社がニュースとして発信する以前に、社内では、どの出来事を扱うか、記者が集めてきた素材のうちどれを使うかという過程が発生する。
何を伝えたいか、どのように伝えたいかは各新聞社に委ねられる。
今回、フェイクニュースと若者を結びつける新聞言説が広がっていった要因の一つは、専門分野ではない専門家の発言が紙面で繰り返されていたことにある。
新聞社が自社の論調に誘導しやすく、ニュースバリュー として編集しやすい専門家にコメントしてもらっている可能性は否めない。
専門分野の識者にきちんと取材をし、インタビューをする。そして、その内容を確認する確かな作業が今後、必要になってくるのではないだろうか。
 (本記事は2019年度秋季(第41回)情報通信学会での発表をまとめたものです)
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