トランプ米政権が在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の5倍増を日本政府に打診していたことが明らかになった。今年7月に当時のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が来日した際に日本側に伝え、日本側は拒否したという。一方的で理不尽な要求である。
日本は2019年度予算で思いやり予算約1974億円を計上している。単純計算で5倍にすると、9800億円以上の巨額に上る。
思いやり予算について最後に公表された04年の米国防総省の報告書によると、日本は在日米軍駐留経費の74・5%、約4分の3を負担している。同じ同盟国の韓国やドイツ、英国、イタリアなどと比べても負担割合は突出して大きい。
思いやり予算は1978年度に始まった。円高による米側の負担増に伴い、日米地位協定で本来米側が支出すべき費用も肩代わりしはじめた。
当初は基地従業員の福利費用などにとどまっていたが、日米の特別協定を結んだ87年度以降は、日本が基地従業員の給与や光熱費、訓練移転費を支出している。
5年間の協定は2021年3月末で期限を迎える。交渉は来春にも本格化しそうだ。
防衛省関係者は米側の要求について「日本の反応を見たかったのだろう」と感想を述べたというが、毅(き)然(ぜん)と向き合ってもらいたい。
トランプ大統領は来年、再選が悲願の大統領選を控えており、外交的な得点は有権者へのアピールになるからだ。
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実際、9月から交渉が始まった韓国に対しても在韓米軍駐留経費の来年以降の負担額について、今年の5倍以上の47億ドル(約5100億円)を提示したと報じられている。
トランプ氏は選挙中から一貫して「誰かが日本を攻撃したら、われわれは駆け付けなくてはならない。でもわれわれが攻撃を受けても日本は助けに来なくていい」などと日米安保を疑問視する発言を繰り返してきた。
「安保ただ乗り論」で日本側をゆさぶり、さまざまな交渉を有利に運ぶ狙いがうかがえる。
元国防長官がかつて議会で「米軍にとって日本駐留は、必要とあれば常に出動できる前方基地として使用できる。日本は米軍駐留経費の75%を負担してくれる」などと利点を強調したことがある。
トランプ氏は日米安保への理解を欠いている。
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トランプ氏の外交における基本姿勢はディール(取引)である。5倍増の要求をふっかけてだんだん落として決着させることを狙っているのかもしれない。
懸念されるのは安倍晋三首相がトランプ氏の売り込みに米国製兵器の「爆買い」をのまされていることだ。日本政府は日米交渉にどう臨むべきなのか。辺野古新基地建設の見直しをはじめとする沖縄の負担軽減策と抱き合わせ、どこに着地点を見いだすのか知恵を絞るべきである。
思いやり予算について米側と毅然と対応しながら、同時に交渉の中に沖縄側の要求を入れ込むべきだ。
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