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2020年07月22日19:03

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小説風妄想 暁烏 10

蟹座 暁烏 10
 驚いた所長は、すぐに病院へ来てくれた。配達は自分が当面代わるから心配はないが、週末は休みを希望している者がいて厳しいと言う。つまりは3日しか入院できないということだった。看護婦詰め所へ行って、入院期間などを聞いたが、「今日は応急処置と検査しかしていないので、まだ入院期間はわからない」と応えられたらしい。とりあえず着替えや歯ブラシなど、入院に必要な物を取って来ると言い、夕方もう一度来ると言い残して帰った。
 俺と連絡を取るのに、当面携帯は戸高さんの携帯を借りることにした。戸高さんは会社用とプライベート用、2台の携帯を持っいるので退院するまではプライベート用を貸しても良いという。所長が帰ってしばらく後に戸高さんも職場へ戻った。
 その間に俺は、急に姿を消した事情を話した。離婚したこと、家を追い出されて途方にくれながら、乗っていたスクーターをでたらめに走らせ、知らない町の公園でコンビニ弁当を食べていた時、たまたま子供と散歩へ来ていた所長に声をかけられたこと。問われるままに、住まいも仕事も失ったことを話すと、所長は、自分の販売所で配達員を品かと誘った。所長の父親が旧いアパートを持っていて、空き部屋がひとつあるので、そこに住めば良いと言う。   
 家を出た時、俺は故郷へ帰るしかないと思い、実家が住めないようなら死ぬしかないと思っていた。故郷に誰も残っていないが、空き家のままで実家は残っている。仕事は無いだろうが、年金と釣りをしながらなんとか食って行けるかも知れないと思っていた。わずかだが畑もある。どうにもならなければ死ねば良いと覚悟を決めていた。
 だから当座の着替えや、通帳などしか持っておらず、寝具や生活用品を何一つ持っていなかった。故郷へ帰るには鹿児島市まで行って船に乗らねばならない。スクーターで行けるかどうか不安だったし、わざわざ故郷へ帰らずとも、どこかの山へ入っても良いと思っていた。深夜に山頂の崖からスクーター事飛び込んだら、自殺でなく事故として処理されるかも知れない。迷いながら、いたずらにスクーターを走らせていた。
 後で所長に言われたのだが、その時の俺は、すぐにも死にそうなオーラを出していたらしい。見過ごすことが出来ないと、声をかけ、とりあえず新聞配達をさせねばと思ったらしい。たまたま配達員が不足しており、自分にも都合が良いと思ったそうだ。
 若い時から喫茶店でしか働いたことが無かった俺は、夢中だった。早朝、まだ人が眠りの世界にいる時に、新聞を配らねばならない。所長のバイクの後ろについて、必死で配布先を覚えた。何かしないと、自分が死を選ぶことを知っていた。
 初日は半分も覚えられなかったが、所長から渡された地図を頼りに、夜が明けてからもグルグルとコースをめぐり、自分の担当地区を覚えた。夜、昼逆転の生活に戸惑いながらも、最終的には200軒ほどを担当することになった。
「新聞配達って、それほど高給取りでは無いんじゃない?生活は出来るの?」
「年金もあるし、贅沢しなければなんとか・・」
「何で電話しないのよ。わたしだってマスターの力になりたかったし、大川社長とか中村さんとか、マスターを助けたい人はたくさんいたはずよ・・」
「常連さんに会うのが恥ずかしかったんだよ。家を追い出されたなんて言えない・・それに、俺が電話苦手だって知ってるだろう?あ、そう言えば三鈴さんにはスーパーで偶然会ったよ。買い物に来ててさ」
「美鈴さん?懐かしい・・元気してた?あんまり親しくはなかったけど・・」
 戸高さんが職場に戻る前にちょっと話しただけだったが、もう5年も経つらしい。時々、女房や息子、店のことなど夢で見ることがあったが、俺はなるべく思いださないようにしていた。(続く)

獅子座クウネル日記
 ハッチョウトンボ撮って来ました。本当に小さく、案内者がいなかったらみつけられなかったかも・・ピント合わせも大変でした。そして暑かった(笑)なお都城の生息地は保護のため勝手には入れません。たまたま知り合った所長が、保護グループの中心メンバーだった幸運で、案内していただきました。感謝。

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