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2019年11月07日21:15

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小説 秋物語り 34

小説 秋物語り 34
 101と書かれたドアの前で、沖田の後ろを付いて来た沙耶がドアを開けた。部屋へ入ると、記憶はさらに鮮明になった。段差を上がってまず台所。ガスコンロがあって流し台。左は冷蔵庫や電子レンジ。飾り棚に小さなコーヒーの木とコーヒーカップが手動ミルと一緒に飾られている。引き戸を引いて居間に入ると、独りで住んでいた時よりきれいに片付き、カーテンは花柄の可愛いプリントに変っていたが、壁には中村義之が趣味で撮っていた写真がW4にプリントされて貼られている。
「少し女の子らしい部屋に模様替えしたけど、基本は変わって無いでしょ?」
 沙耶は台所でヤカンに水を入れ、コンロにかけながら言う。外から帰ったらまずコーヒーと言う中村義之の習慣を熟知した行動だ。パソコンの位置もそのままで、カメラ雑誌を重ねてモニターを眼の高さにしてあるのもそのままだ。このパソコンで中村は写真ブログに自作の作品をアップしたり、無料配信されている韓ドラを見ていた。
「お爺ちゃん、お湯湧いたわよ。わたしが点てていい?」
「あぁ」と返事しながら中村義之はパソコンのスイッチを入れた。起動すると、すぐに写真ブログを開いて見た。トップ画面に「このブログは管理人から引き継いで使用しています」と断りをいれ、沙耶が撮ったらしい写真がアップされていた。アクセス数を見ると、中村がやっていた頃は一日平均15〜20だったアクセスが60〜90に増えていた。
「写真、じょうずになったね」
「そう、お爺ちゃんにずいぶん教えてもらったもの。そうそう今年は県美展でも入賞したのよ」
 沙耶がアルバムを開き、作品を見せてくれた。祭りのスナップで、兄と妹の表情が高揚感に満ちており、背景の神輿のブレが動きを出し、ちょうどいい具合にボケている。祭りを見つめながらも、妹を気遣っている兄の表情、大人の顔をカットすることで、兄妹の表情と仕草が強調されている。
「いいなぁ、この写真・・やっぱり女性はすごい・・」
「お爺ちゃんの写真だって、すごかったよ」
「俺のは駄目だよ。一応見れる程度の写真ばかりで、いつも何かが足りない・・」
「今は写真やって無いの?」
 沖田は改めて部屋を見回した。花・風景・雲海・・俺が撮った写真が貼られている。写真歴が永いので、構図的にはまとまっている。が、それだけだ。沙耶のような、ドラマや感性を感じさせるものが無い。
 ふと時計を見ると、夜の11時。配達があるからそろそろ寝なくてはならない・・そう思って、沖田は苦笑した。今の自分は中村義之では無く、沖田であることを思い出した。(続く)

獅子座クウネル日記獅子座
 今日はというか今日もと言うべきか、意欲が上がらずさぼりの一日でした。テレビもあまりみず、寝て暮らすという寝て王道の引きこもりです(笑)明日はめまいで救急搬送された病院の診察日。めまいを起こさぬために注意すべきことなど聞いて見ようと思っています。 あ、山さんが様子を見に来てくれました。ありがたいですね。

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