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2019年11月06日20:12

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小説 秋物語り 33

小説 秋物語り 33
 その日、松原家を辞したのは夜9時を過ぎてからだ。女性は10時までに帰すというのが沖田の流儀だった。美紀とデートした時も、店の他の客と会った時も、かたくなに門限10時を守っている。
「子供じゃないんだから・・・」
 美紀を含め、誰もが笑ったが、沖田は人の身体は夜10時以降は細胞の再生と復活の時間だから、入浴をし身体を休ませねばならないと拘っている。すぐには寝なくても、一番リラックスできる場所でくつろぐべきだと思っている。
 沙耶を送って稲荷神社近くの交差点へ来た時、沖田は何となく見覚えのある場所だと思った。コンビニ、焼き鳥販売の小屋・・沙耶に確かめることも無く沖田は車を右折させ、古びたアパートの01と番号の振られた駐車スペースに車を停める。
「記憶が戻ったの?」
 沙耶がびっくりして沖田を見る。
「どうなんだろう?何気にここへ入ったけど・・」
「だって、ここ・・お爺ちゃんの場所よ。お爺ちゃんの車は白いジムニーで、わたしがそのまま乗っているの。お店に置いて来たから今は空いているけど・・」
 沙耶のその言葉でさらに思いだした。女房と喧嘩になったのも車を買う時だった。女房は家族でドライブするからセダン、もしくはキャンピングカーだと言い張ったが、沖田は妙なこだわりを持っている。だいたいに大雑把な性格なので、自己主張などめったにしない性質なのだが、妙なところで意固地になるのだ。ジムニーで無ければ車はいらないと言い張った。
そしてまた思いだした。長年コーヒー店で働き、30代後半に独立した、年金を受給しだすと、女房から突然離婚をきりだされ、家を追い出されたことを。店は娘がやるからと、着替えの入ったリュックひとつと一緒に締め出されたのだ。用意されていた書類、用意されていたリュック・・
 それほど夫婦仲が悪いとは思っていなかった・・それほど娘が母親と同調するとは思っていなかった・・その事実にショックで、突発性難聴となり、情緒不安定になって街を彷徨った。
 偶然、店の客に見つかり事情を聞かれ、アパートを世話してもらった。布団や食器、家具などを用意してもらい、独り暮らしを始めたのだ。生きる気力を無くしていた俺に、彼は生きる気力を与えてくれた。
「俺は中村義之・・年金と新聞配達で細々と暮していた・・」
 つぶやいた沖田に沙耶が言った。
「部屋へ行かない?ほぼそのままにしてあるのよ。いつかお爺ちゃんが帰ってくるような気がして・・」
 沖田はふらふらと車を降り、1階の角部屋へと歩む。(続く)

獅子座クウネル日記獅子座
 めまいはだいぶ治まりました。今朝から配達を復活です。ちょっと不安でしたが、無事終了指でOKその元気で早朝散歩も開始。残念乍ら、朝焼けはアパートを出る頃に始まっていて、撮影は間に合いませんでした。今日は整骨院へも行き、小説も書いて、リズ実がほぼ戻っています。元気な男です(笑)

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