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2018年01月20日09:47

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妄想小説 風舞 38

               妄想小説 風舞 38

岬馬の出産の時期と聞いていたが、まさにその時期であった。母馬の傍で草を食む仔馬が点在している。今にも産まれそうな大きな腹をした馬がいる。なだらかな稜線にうまい具合に配置されたそれらの馬は、ただシャッターを切るだけでそれなりの写真にまとまりそうだ。
「写真撮らないの?」
 尚子が問う。
「う・・ん・・それより気にならない?」
「何が?」
「助けを求めている馬がいるような・・こっちだ」
 気配のする方向へ走り出した俺の後ろを、尚子が付いて走る。海側の崖に沿って、人が歩いたような跡があった。それは海から誰かが登って来て、崖の上を村落へ向かったと俺は直感した。草の踏まれ具合から見て、まだ新しい。ひょっとしたら今朝かも知れない。俺達が来る少し前かも知れない。助けを求める馬の気配の方向に注意しながら前へ進むと、1頭の馬が倒れ苦しんでいた。傍で産まれたばかりと思える仔馬が心配そうに見ている。助けを求めている。母馬の腹から血が流れている。銃で撃たれた・・俺は迷わず尚子の父親へ電話をかけた。
「どう言うこと?」
 尚子が問う。
「中国か北朝鮮かわからないけど、特殊工作員が上陸したのだろうな。この馬はその犠牲になったと思う」
「そんな・・スパイ映画じゃあるまいし・・それに、もしスパイだとしても・・こんなとこから来る?飛行機だってあるし、堂々と入れるのよ・・」
「俺もそう思ってたよ。でも、前にね。聞いたことがあるんだ。宮崎市のカメラマンで朝焼けを専門に撮っている知り合いがいるんだけど、彼がね、新しい撮影場所を探して海岸沿いに歩いている時、岩陰に作られた小屋を見つけたらしいんだ。釣り人が来るような場所でも無いし、何だろうと思って入って見ると、無線機らしいのがあってね。ちょうど宮崎湾に不審船が来ているって噂が出ていた時だったので、念のために知り合いの警察官に話したんだって・・内部の写真を一緒に撮影してね。公にはならなかったけど、結局、それがスパイを逮捕することになったらしく、以後宮崎湾の不審船もいなくなったらしい」
「信じられない・・今時スパイがいるなんて・・」
「国家がある限り情報戦は必要だろうし、だからこそ宮守家も代々受け継がれていると思うよ」
「だって、今はネットの時代よ。ハッカーの侵入とかが時々ニュースに出てるじゃない。それにレーダーで海も空も監視してるんじゃなかった?」
「だからこそ、肝心なことは記録に残さないし、直接目で確認する必要があるとも言えるよ。尚ちゃんは表情で人の心を読むって言うけど、逆に言えば読まれない表情を身に付けた人間もいると思う」
 尚子の瞳が一瞬動いた。ちょうどその時、爆音とともに一機のヘリが近づくのが見えた(続く)

獅子座クウネル日記獅子座
 風邪が長引いています。くしゃみが絶えないので新聞配達以外は外へ出なくなりました(汗)なので、今日も写真がありません。写真無しも案外楽ですね(笑)
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