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2016年02月08日13:34

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小説・こっこ物語 (バラ一輪 42)

小説・こっこ物語 (バラ一輪 42)
 持ち帰り用の透明のビニール袋からバラを取り出し、嬉しいと連発する裕子。一輪だけ咲いた白いバラの鉢を持って踊り出しそうな雰囲気だ。俺はビデオをつけ、夕食の開始を促した。
 録画してあったニュースやワイドショーが画面に映し出される。食事の時の俺の習慣だ。ニュースなどの情報は食事中に仕入れる。なので、食事中は会話をしない。外食をせず、弁当を買って部屋で食べるのも同じ理由だ。ビデオの録画はスタッフがしてくれる。すでに知ったニュースや興味の無いニュースは早送りする。もっと深く知りたい事柄などはメモに取る。後で新聞を見たり、関連報道を調べたりするためだ。
「ドラマの話しだけど・・」
 食事が終わるのを待って裕子が話しかけて来た。白バラのプレゼントがよほど嬉しいのか食事中も手元に置き、何度も眺めていた裕子は食事が終わるのを待ちかねていたようだ。
「あなたがプレゼントをくれるなんて初めてではないかしら?」
「誕生日のプレゼントはしてるだろ?」
「あれはあなたがってよりお店がしてくれてるんじゃない」
「まぁ、そうだけど・・」
 俺は認めた。食事と似たように習慣化しているのが、スタッフの誕生日プレゼントだ。プレゼントに何を贈るのかに悩む面倒を省くため、スタッフやアルバイト、もしくは常連客の誕生日には「こっこ」へ招待することにしている。
 店の営業時間中に行うのだが、特別メニューを組んで席を確保し1時間ほどのパーティタイムを作る。コーヒーを専門でやっている店舗では近隣のレストラン部門からケータリングする。ケーキ部門から大きな誕生日ケーキも取り寄せる。商品でプレゼントした方が安く上がるのだが広告を兼ねているのだ。居合わせた関係の無い客はこっこの新たな一面を知るし、スタッフの家族や友人も、それがきっかけで新たな顧客になると言う計算だ。誕生日に合わせて俺は各店舗へ出向き、お祝いのことばを述べるついでに各店の状況をチェックする。
「現実にドラマは無い・・ってわたしはいつも言ってるけど、こんな予想外のことをされると、ドラマがあるかな?って思っちゃう」
「予想外?そんな大げさな・・1000円もしてないし、リボンはお店の人がしてくれただけだよ。プレゼントかって聞くから、そうだって答えただけで・・」
「ふふ・・誕生日でも無いのに、それもあなたから花を貰ったりするなんて・・これはもうドラマよ」
「飯代を請求されたこと無いから・・」
 答えながら俺は自分の顔が赤らんでいることを意識した。まるで少年のようだ。そう思うと思うほどに顔が赤らんで行く。裕子の顔を見れない。ドラマの始まりと急展開を期待しているはずなのに・・
「ふふふ・・あなたとわたしって・・」
 裕子がクスクスと笑い出した。
「おかしい?」
「いつだったか麻耶さんに言われたことがあるの。あなたとわたしは似た者どうしですって」
「俺も言われたよ。同じタイプだって。どういう意味か解らなかったけど・・」
「わたしもよ。でも今わかった。わたしとあなたって・・きっと愛情表現・・ごめんなさい。感情の表現が似ているのよ・・」
 裕子はそう言うとバラの鉢花を持って起ちあがった。流しへ移動する時、ちらりと見えた顔が赤くなっていた。ひょっとしたらそれを悟られたくないから背をむけているのかも知れない。そう思えた。
「ねぇ・・このバラ・・一輪だけ咲いてるやつ切ったら駄目?」
「いいいけど・・すぐ枯れるんじゃないかな?」
「ドライフラワーにしたいの・・蕾も咲きだしたら適当な時期に切ってドライにする・・」
 裕子がバラの鉢を大事そうに抱える。
「帰る・・ありがとう・・」
 俺は何も言わずうなづいた。これからドライフラワーを作る作業をするのだろう、そしてバラ一輪がずっと裕子の部屋に飾られるのだろう、そう思った。(終わり)

わーい(嬉しい顔)クウネル日記目がハート
 唐突に小説終わりました(笑)
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