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2019年12月29日10:16

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古巣

今日の勤務地は西新。私にとって古巣である。
出勤時刻30分前に家を立ち、6年間、毎日通った道を急いだ。
以前の出勤路は、特に変わらず、商店街の合間を人々がゆっくり歩いていた。テナントが一件潰れており、募集がかかっていた。
そして小さな子を連れた夫婦が、これまたゆっくり通りを歩いていた。正月が近い。

今川と西新を挟む川。名称は知らないが、そこを過ぎると私は少し気持ちが沈む。店長時代も大体、そうだった。やはり今日も同じだった。
大名や今泉と違って、西新のビル群は背が低い。
「田舎」の文字が胸に浮かぶ。中心地と比べて、そんなに大幅に変わる訳では無い。繁華街と郊外の中間。西新はそんな街だ。

心のどこか仄暗く蒼みがかった部分。そこが痛む。
痛むというのは大袈裟か。むず痒い。
やはり古巣というのはそんなものか。私にとって西新は特別な地だ。

予定時刻2分前に着く。店長を降りた時と特にメンバーは変わっていなかったが、大名から応援に来ている顔見知りの子が居たから、言葉より目線で挨拶をする。不思議と西新メンバーよりも気持ちが通じる。

店長を降り、遊撃手の立場になってから、
色んな所に行った。大名、今泉、福重、そして西新。
店舗が変わると街々の雰囲気も変わるし、人々が心に纏う色合いも変わる。

勤務を開始し、はじめに老舗のちゃんぽん屋に挨拶に行く。
自分が店長を辞めた事を大将が知らなかった事を、先日、西新の古いメンバーから聞いた。
西新を離れる時に満遍なく、挨拶に伺ったと思っていたが、漏れていた。
近況報告から、最近の西新店の対応は問題無いか、尋ねる。
前よりも横柄な態度のスタッフが居るとの事だが、
特に問題は無いとの事。

次に、私が西新に居た事、最後までお世話になった定食屋に向かう。60年近く続く老舗だ。
ある事情があって特別、お世話になった。
話が弾む。ここでも西新店の対応を尋ねるが特に問題無いとの返答。少し安堵した。

その後は、現店長の指示に従いひたすら納品を繰り返す。
6年居た土地だ。納品ルートは知り尽くしている。容易い。
ここは私の庭だ。

休憩時間、控え室であるスタッフとじっくり話が出来た。
この人は以前、親不孝でバーを営んでおり、客としてしょっちゅう遊びに行っていた。音楽好きのマスターで、本当に良い場所だった。店を畳み職に困っていると聞き、西新店に誘った。
60近い体で、いつも真面目に頑張っている。
最大20キロのビール樽はかなり重い。33の私でも腰にくる。
長い時は12時間、4年近く今の職場で働いている。

別の若い学生のスタッフは、来年、己の見聞を広める為、
トルコに2週間、旅に出るそうだ。
往復のチケットだけとり、宿も現地で決めるとの事。
社会主義の独裁国家らしく、彼を羨ましく思った。
21の時に、1ヵ月アメリカに旅に行った事があり、
彼の高鳴りが良くわかる。帰ってきたら話を聞かせて欲しい。

24時の営業終了までの1時間、酒代がたまっている店に
探りを入れに行った。
扉を開けたら偶然、本当に偶然。オーナーが店にいた。
混んでおり、二言三言しかやりとり出来なかったが、
今は相手に金が無いのがわかった。
勿論、先方的には、自分の生活水準を落とす事無く、その上で返済をする余裕が無い。と言う事だろう。
本当に金が無い人間は、あんな表情を出来ない。
隣に居るその綺麗な女を売りゃ、一瞬で返済出来るだろ。
チクッとそんな事を思った。

店に戻ったら0時を超えていたが少し配達が残っていた。どうやらある店から店長の携帯に直電が入り、至急焼酎を1本持ってきて欲しいとの事。在庫が無い商品で別の支店に貰いに行く必要があると。我々のような特殊な酒屋は、営業時間を超えて配達する事が珍しく無い。
だけど後はもう大丈夫だ。元々のメンバーで賄える。
先に上がりますね。店長以下一同に声をかけ、年末年始の挨拶を済ませ、店を後にした。

帰宅途中、馴染みのライブハウスに寄り、この前ツケにしてもらっていた飲み代を払った。せっかくだから、ビールを1本飲む。
あまり話もせず自宅に帰って風呂に入り、太宰を読んだまま寝落ちしていた。目が覚めたら、明かりがつきっぱなしだった。

特定の居場所が無い寂しさ。それが今も続いている。
店長はもうしたく無いが、反面あの時代が恋しい。

そんな1日だった。
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