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2021年02月15日19:19

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読書日記Nо.1334(俵万智、最新歌集を堪能)

■俵万智「未来のサイズ」2020年10月、KADOKAWA刊

俵万智の8年ぶりの最新歌集を、鑑賞した。
2013年〜2020年までの8年間の歌、418首が収録されている。

俵万智は、穂村弘と並ぶ、現代口語短歌の旗手で、日本の短詩型文学好きの
私にとっては、名前を見たら手に取る歌人だが、異性ということもあり、
アイドル的な、好感を抱いているのではないかという、気がしないでもない。

40年前のアイドルといえば、若い方にはご縁がないかもしれないが、例えば、
キャンディーズのランちゃん、スーちゃんのように。

1986年に刊行された、「サラダ記念日」は、社会現象になった。
これが、短歌?という斬新な歌の数々の中で、私が好きだったのが、例えば以下。

・万智ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校

固有名詞は、インパクトが強いので、歌の中に入れると、歌として成立するのが
難しい場合もあると思うが、自然な韻律で、万智ちゃんを浮かび上がらせた。

この歌集でも、固有名詞使いの名手の面目躍如の歌がたくさんあり、後から引用する。

その万智ちゃんも、1962年生まれなので、もうすぐ、還暦なんですね。
本歌集は、お母さんとなった、万智ちゃんの素敵な歌がたくさんあった。

本書の惹句を紹介します。

“子どもを育てることは時代と社会に直面していくことだった。何気ない日常に
こぼれ落ちる奇跡のような瞬間を切り取った歌の数々は、短歌という定型だから
こそ獲得できた、三十一文字の箴言集ともいえる。未来への希望をつかんで放さない、
俵万智の真髄がここに。”

全部で、418首収録されているが、心に残った歌30首を直感で、引用。

・トランプの絵札のように集まって我ら画面に密を楽しむ
・手洗いを丁寧にする歌多し泡いっぱいの新聞歌壇
・会わぬのが親孝行となる日々に藤井壮太の切り抜きを送る
・感染者二桁に減り良いほうのニュースにカウントされる人たち
・むらさきに染まる雲あり「紫陽花」はこんな空から生まれた漢字
・地図に見る沖縄県は右隅に落ち葉のように囲われており
・自己責任、非正規雇用、生産性 寅さんだったら何て言うかな
・子のために願うことなかれ願うとは何かを期待することだから
・制服は未来のサイズ入学のどの子もどの子も未来着ている
・日に四度電話をかけてくる日あり息子の声を嗅ぐように聴く
・世界まだ知らぬ息子が暗記するアンデス山脈バチカン市国
・あす会えるあした会えると思うとき子を産む前の夜を思い出す
・牧水が海亀ならば泣きながら浜辺に産んだ歌の数々
・言葉数少し減りつつこの冬は「博士の愛した数式」を読む
・「君たちはどう生きるか」を読み終えておまえが生きる平成の先
・子を産みて仙台・石垣・宮崎と慌ただしかり我の十年
・「お祝いに歌人と話しさせてやろう」我は選びき河野裕子を
・あれほどの冬のできごと「愛人でいいの」の歌を褒めてもらった
・不条理とは何かと問われ子に渡す石牟礼道子の「苦海浄土」を
・「短所」見て長所と思う「長所」見て長所と思う母というもの
・親という役割だけを生きる日の葉桜やさし授業参観
・ひとひらの雲となりたし千年のかくれんぼして君をみつける
・クッキーのように焼かれている心みんな「いいね」に型抜きされて
・ほろほろと息子生(あ)れたり「バカの壁」ベストセラーとなりたる年に
・生き生きと息子は短歌詠んでおりたとえおかんが俵万智でも
・プレッシャーと闘う心 AIの持てないものの一つと思う
・レシピ通りの恋愛なんでつまらないぐつぐつ煮えるエビのアヒージョ
・ほどほどの切れ味がいいセラミックナイフのような新語をつかう
・求めているものは「恋人」と告げられる深夜番組の心理テストに
・別れ来し男たちとの人生の「もし」どれもよし我が「ラ・ラ・ランド」

俵万智はあとがきに記す

“短歌は、日々の心の揺れから生まれる。どんなに小さくても「あっ」と心が揺れた
とき、立ち止まって味わいなおす。その時間は、とても豊かだ。歌を詠むとは、
日常を丁寧に生きることなのだと感じる。”

“2013年から2020年まで、足かけ八年の第六歌集となる。四百十八首を選んだ。”

“この間の個人史で一番大きかったのは、住まいを移したことだ。まる五年を暮らした
石垣島から、縁あって宮崎へ。息子が中学生になるタイミングだった。”

“子育てを通して、社会のありようへの関心を深めた時期でもあった。子どもたちの
「未来のサイズ」が大きくたっぷりしたものであることを、祈らずにはいられない。”
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