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2020年07月12日17:12

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読書日記Nо.1279(「折々のうた」のアンソロジー、汲めども尽きぬ)

■水原紫苑編「大岡信『折々のうた』選 短歌(一)」2020年2月岩波新書

私は日本の短詩型文学(短歌や俳句)の鑑賞が好きで馴染んでいるとは、
この読書日記で、兼ねてから表明していて、ときどき取り上げている。

2020年になって、岩波新書から、「大岡信『折々のうた』選」全五巻が
刊行されはじめて、まず、短歌編から手に取ってみた。

全五巻は、俳句編が二巻(選者は、長谷川櫂)、短歌編が二巻(選者は、水原紫苑)、
詩と歌謡編が一巻(選者は、蜂飼耳)。

大岡信さんの「折々のうた」とは何かについて、念のためにに記すと下記。

「折々のうた」は、朝日新聞に、1979年〜2007年、途中休載はあるも、
29年間にわたって連載された、日本語の短型詩のアンソロジー。

掲載は、6762回におよぶという。

新聞掲載後、岩波新書から、「折々のうた」として刊行され、索引も
含めて、累計21冊が刊行された。

その21冊目の最終巻を読んで、2007年に読書日記を書いていたので、紹介します。

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=644054910&owner_id=5540901

さてさて、遅ればせながら、本書の惹句を紹介。

“短い詩句によって長い詩の織物を織る。連句の骨法を生かして織り上げた、
壮大な詩歌アンソロジー『折々のうた』。本巻では、大岡信が選んだ古今の和歌、
短歌のかずかずから精選し、四季折々の流れに乗せてゆく。古代の「よみ人しらず」
の歌人から、中世、近世、近代の著名な歌人まで、季節の移ろいに人びとの豊かな
詩情が映しだされる。”

私が日本の短詩型文学に馴染むようになったのも、中学・高校の国語の教科書の
影響もあるが、大岡信さんの「折々のうた」をずっと読んでいたせいがあると
思われる。

本書でとりあげられた短歌から、心に残った歌を、各季節5首ずつ、紹介。

■春のうた
・春風の花を散らすとみる夢はさめても胸のさわぐなりけり 西行法師
・花びらをひろげ疲れしおとろへに牡丹重たく萼(がく)をはなるゝ 木下利玄
・ならさか の いし の ほとけ の おとがひ に
 こさめ ながるる はる は き に けり   会津八一
・桜ばないのち一ぱい咲くからに生命(いのち)をかけてわが眺めたり 岡本かの子
・動乱の春のさかりに見し花ほどすさまじきものは無かりしごとし 斎藤史
■夏のうた
・めん鶏(どり)ら砂あび居たれひっそりと剃刀研人(かみそりとぎ)は過ぎ行きにけり
  斎藤茂吉
・またひとり顔なき男あらはれて暗き踊りの輪をひろげゆく 岡野弘彦
・森かけてきてほてりたるわが頬をうずめんとするに紫陽花くらし 寺山修司
・みどり児の重さをかひなは記憶せり赤枇杷一枝宙に撓(たわ)めり 稲葉京子
・砥ぎてもつ厨刀(ちゅうとう)青き水無月や何わざのはて妻(め)とはよばるる 
馬場あき子
■秋のうた
・秋来ぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる 藤原敏行
・かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな 若山牧水
・なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな 与謝野晶子
・父の背に石鹸(しゃぼん)つけつつ母のこと吾が訊いている月夜こほろぎ 北原白秋
・ぞろぞろと鳥けだものをひきつれて秋晴の街にあそび行きたし 前川佐美雄
■冬のうた
・最上川逆(さか)白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも 斎藤茂吉
・凧(いかのぼり)凩(こがらし)風と記しゆき天なるもののかたちさびしき 山中智恵子
・さむきわが射程のなかにさだまりし屋根の雀は母かもしれぬ 寺山修司
・北向きの廊下のすみに立たされて冬の歌などうたへる箒(ほうき) 永井陽子
・ふかぶかと雪をかむれば石すらもあたたかき声をあげんとぞする 山崎方代

比較的、近現代の歌をとりあげたが、実際は、万葉・古今・新古今の歌がたくさん
とりあげられている。

大岡信さんの注釈を読んでいるだけで、1200年にわたる日本の詩歌の伝統に
アクセスできている悦びを感じる。

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