■橘玲「上級国民／下級国民」2019年8月小学館新書
本書は今月の最新刊で、「言ってはいけない」等、社会のタブーに
挑戦した書物で、ベストセラーを出している、橘玲さんの最新刊。
「上級国民」という呼称は、今年、東京池袋で、80代の元高級官僚が、
アクセルとブレーキを踏み間違え、母子を事故死させた際、逮捕され
なかったので、“「上級国民」は優遇されるのか”、という言説がネットに
飛び交い一挙に広まった言葉。
日本の昭和の1970年代、「一億総中流」という言葉が飛び交った。
誰でも、真面目に努力すれば、「中流」の生活ができるというのがその意で、
確かに、周囲を見渡しても、そのような生活は当たり前にあったように思う。
それが、1990年代のバブル崩壊から、一挙に崩壊し、就職氷河期の時代に
就職にあぶれた世代は、中高年になっても、正規の仕事に就けず、社会問題
になりつつある。
「勝組」「負組」といういやな言葉が象徴される、国民の分断は、日本に
固有のものかといえば、さにあらず、ＩＴ化、グローバル化の必然の結果で
あり、世界的な現象であるというのが、著者の主張である。
本書の惹句は、読者の危機感を煽っていて、ちょっとどぎついですが、紹介
しますね。
“やっぱり本当だった。
いったん「下級国民」に落ちてしまえば、「下級国民」として老い、死んで
いくしかない。幸福な人生を手に入れられるのは「上級国民」だけだ──。
これが現代日本社会を生きる多くのひとたちの本音だというのです。”
“バブル崩壊後の平成の労働市場が生み落とした多くの「下級国民」たち。
彼らを待ち受けるのは、共同体からも性愛からも排除されるという“残酷な運命"。
一方でそれらを独占するのは少数の「上級国民」たちだ。”
“「上級／下級」の分断は、日本ばかりではない。アメリカのトランプ大統領選出
、イギリスのブレグジット（EU離脱）、フランスの黄色ベスト（ジレジョーヌ）
デモなど、欧米社会を揺るがす出来事はどれも「下級国民」による「上級国民」
への抗議行動だ。”
“「知識社会化・リベラル化・グローバル化」という巨大な潮流のなかで、世界が
総体としてはゆたかになり、ひとびとが全体としては幸福になるのとひきかえに、
先進国のマジョリティは「上級国民／下級国民」へと分断されていく──。”
“ベストセラー『言ってはいけない』シリーズも話題の人気作家・橘玲氏が、
世界レベルで現実に進行する分断の正体をあぶり出す。”
目次と小見出しの抜粋も紹介
PART1 「下級国民」の誕生
1 平成で起きたこと
・日本のサラリーマンは世界でいちばん会社を憎んでいる
・女性の非正規が増えた理由
・各戸訪問でひきこもりを調査した町
・ひきこもりは100万人ではなく500万人?
・経済低迷の理由は「日本市場に魅力がない」から
2 令和で起きること
・団塊の世代と団塊ジュニアに起きたこと
・パラサイト・シングルの“発見"
・令和の最初の20年で起きること
・現役世代1.5人で高齢者1人を支える社会
・確実に来る未来
PART2 「モテ」と「非モテ」の分断
3 日本のアンダークラス
・若い大卒男性の幸福度は低い
・「ほとんどポジティブなもののない」ひとたち
・大阪フリーター調査
・若者が「遊びの世界」に入る理由
・教育の本質は「格差拡大装置」
4 「モテ」と「非モテ」の進化論
・女は男より幸福度が高い
・男は女より「不安定性」が大きい
・女性は「階層」を気にしない?
・なぜ女子学生の方が留学するのか?
・「結婚がつらい」男たち
PART3 世界を揺るがす「上級/下級」の分断
5 リベラル化する世界
・私の人生は私が自由に選択する
・リベラルな社会の能力主義
・リベラルの理想は究極の自己責任
・「リスク」を自分で引き受ける
・自己分析と自己コントロール
6 「リバタニア」と「ドメスティックス」
・「絶望死」する白人たち
・「中流崩壊」を予言した経済学者
・先進国では同じことが起きている
・アメリカ社会の分裂
・ヤンキーとエリート
エピローグ 知識社会の終わり
・ポピュリズムは「知識社会への抵抗運動」
・サイバーリバタリアン「右派」と「左派」
・ベーシックインカムはなぜ破綻するのか?
・お金は分配できても性愛は分配できない
・「技術」と「魔術」が区別できない世界
なんだか、暗然とするような小見出しが並んでいますが、好むと好まざる
とにかかわらず、ＩＴ化、グローバル化の波は避けられません。
その中でいかに生きるべきか。
娘や孫たちの生きる令和の時代が、幸多かれと祈るばかりです。
ログインしてコメントを確認・投稿する