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2019年02月18日09:26

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西成彦著「外地巡礼」を読んで 



照る日曇る日 第1201回

こないだ、1968年に、一艙の船で南米ブラジルなどの南米諸国に渡った、日本人家族の軌跡を、半世紀に亘って取材し続けた「乗船名簿AR29」という番組をみました。

元NHKディレクター相田洋氏の執念が、乗り移ったドキュメンタリーでしたが、誰ひとり身寄りもいない外地の只中で、アマゾンの原始林を掘り起こし、新しい人生を一鍬一鍬切り開いていった勇気と忍耐に、大きな感銘を受けました。

本書の著者も指摘するように、戦争や国策、個人的な野望や失意や傷心など、様々な理由で母国を離れ、新天地で新たな自由や希望や慰藉を求めた大勢の「内地人」がかつて存在したし、いまも存在し続けています。

本書では、そのブラジルのような「外地」を舞台に、見知らぬ外国人と外国語の洗礼を受けた「内地人」が、明治維新の昔から現在にいたるまで、西欧はもとより台湾、韓国、北朝鮮、満州などの旧植民地、沖縄、北海道なども含めた広大な領域において、どのような文学体験を経てきたのか、その歴史と内実をつぶさに辿っています。

著者によれば「植民地文学」は、1)「移住者」たちの文学(北海道なら有島武郎の「カインの末裔」、小林多喜二の「蟹工船」など)、2)布教や学術研究のために訪れたインテリの先住民族文化報告(金田一京助のアイヌ研究)、3)先住民族の内部から登場したバイリンガルな表現者たちの作品(知里幸恵の「アイヌ神謡集」4)外地性を正面から受けとめようとする内地人作家の実験(中條百合子「風に乗ってくるコロボックル」、武田泰淳「森と湖のまつり」、池澤夏樹の「静かな大地」)の4つの類型に分類できるそうですが、そのことを通じて複雑にして怪奇な人間存在の暗闇が白日の元に晒されるとともに、旧来の内地プロパーの狭隘な文学観に楔が打ち込まれ、未来の世界文学への新しい視座と展望が生まれてくるように予感されるのです。

     絶対に女性だと思ってたよさとう三千魚さん一色真理さん

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