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2017年12月17日09:35

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桐野夏生著「デンジャラス」を読んで



照る日曇る日第1017回

偉大なる文豪、谷崎潤一郎を生涯にわたって支え、インスパイアーした松子夫人の妹重子とその義理の嫁渡辺千萬子を軸に、その芸術と人生の内幕を鋭くえぐる。

谷崎の創作の女神は周知のごとく「蘆刈」「春琴抄」の頃は松子だったが、「細雪」「鍵」は重子、「瘋癲老人日記」からは若くて生意気な千萬子に変わっていった。伊吹和子によれば最晩年の作家は、千萬子をモデルにした「天児閼伽子の小説」を書こうと最後の創作の焔を燃やしていたが、潤一郎の視野にはもはや松子・重子の老残の姿など欠片すらなかった。はずであった。

ところが本書によれば、死んだはずの重子さんが文豪に最後の逆襲をかけ、本家に縁もゆかりもない異邦人の千萬子を輝けるミューズの王座から引きずり下ろし、作家を奴隷のように跪かせるのである。
「あなた様こそが、私の創作の源流でした。あなた様がいらしたからこそ、松子が輝き、私たち夫婦が仲睦まじくしていられたのです。あなた様ほど大事な方はおりません。あなた様ほど複雑で素晴らしい女人はおられません」

土下座して告白する谷崎の左肩の上に、重子は足袋を穿いた右足を置いて足先に力を籠め、本命の女神は「なら、千萬子はどないするんや」と脅迫して「千萬子はもう二度と会わないようにします。どうぞ私を信じて、お許しください」と言わせるのであるが、これって本当に本当だろうか?
フィクションであるとはいえ、当の渡辺千萬子本人の協力を得て書き上げた小説だけに、とても気になる本書でもっともデンジャラスな個所である。

   上京し半世紀以上経ってしもて丹波弁なんか忘れてしもた 蝶人



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