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2017年12月12日09:18

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ナボコフ・コレクション第1巻「マーシェンカ、キング、クイーン、ジャック」を読んで


照る日曇る日第1015回

2作ともロシア語からの直接の初邦訳というが、英語訳も読んだことがないナボコフ選手20代の若書き中編小説であった。

表題の「マーシェンカ」というのは、主人公の憧れの初恋の女性である。若き日にロシアの故郷で「好きにして」とまで言われたのに、結局なぜだか「振って」しまったのだが、それから幾星霜、人妻となった彼女がベルリンの同じ下宿にやってくるというので、やけぽっくりに火がついて妄念が燃え上がるのだが、結局その寸前に思い返して遠くへ去ってしまう。

あまりにもあっけない結末だと文句を言う批評家もいたそうだが、これは主人公の判断の方が正しいと私は思います。阿呆莫迦亭主から彼女を略奪して一緒になろうという無謀な計画が彼らを幸せにするはずがない。

次の「キング、クイーン、ジャック」は田舎からベルリンとおぼしき都会にやってきた若者が、美しい人妻と相思相愛の仲になって、2人で共謀して邪魔な亭主を殺そうとして果たせず、突然人妻が死んでしまうというお噺であるが、サスペンスドラマのようにぐんぐん引っ張っていく筆力はさすが。

前作と同じように結末には多少の不満も残るが、ないよろもかによりも、「縷々物語ることの快楽」のようなものが、そこここに垣間見えて、それが作者の非凡さを雄弁に物語っているようだ。

 年寄りはどんどん死にゆき若者はどんどん年寄りとなりどんどん死にゆく 蝶人


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