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mixiユーザー(id:5493780)

2019年10月13日20:55

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徳兵衛お初 道行


曽根崎心中

近松門左衛門




徳兵衛お初 道行




この世の名残り、夜よも名残り、死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそ哀れなれ。 あれ数ふれば、暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞き納め、寂滅為楽じゃくめつゐらくと響くなり。 鐘ばかりかは、草も木も空も名残りと見上ぐれば、雲心なき水の音、北斗は冴えて影うつる、星の妹背いもせの天の河、梅田の橋を鵲の橋と契りて、いつまでも、われとそなたは夫婦星、必ずさうとすがり寄り、二人がなかに降る涙、川の水嵩みかさも増まさるべし。

 向かふの二階は、何屋とも、おぼつかなさけ最中にて、まだ寝ぬ灯影ひかげ、声高く、今年の心中よしあしの、言の葉草や繁るらん。きくに心もくれはどり、あやなや、昨日今日までも、よそに言ひしが、明日よりは我も噂の数に入り、世にうたはれん。うたはばうたへ、うたふを聞けば、
 「どうで女房にや持ちやさんすまい。いらぬものぢやと思へども」
 げに思へども、嘆けども、身も世も思ふままならず、いつを今日とて今日が日まで、心の伸びし夜半もなく、思はぬ色に、苦しみに、
 「どうしたことの縁ぢややら、忘るる暇はないわいな。それに振り捨て行かうとは、やりやしませぬぞ。手にかけて、殺しておいて行かんせな。放ちはやらじと泣きければ」
 歌も多きにあの歌を、時こそあれ今宵しも、うたふは誰そや、聞くは我、過ぎにし人も我々も、一つ思ひとすがり付き、声も惜しまず泣きゐたり。

 いつはさもあれ、此の夜半は、せめてしばしは長からで、心もなつの夜の習ひ、命を追はゆる鶏の声、明けなばうしや天神の、森で死なんと手を引きて、梅田堤の小夜烏さよがらす、明日は我が身を餌食ぞや。まことに今年はこな様も、二十五歳の厄の年、わしも十九の厄年とて、思ひ合うたる厄祟り、縁の深さのしるしかや。神や仏にかけおきし、現世の願を今ここで未来へ回向し、後の世も、なほしも一つ蓮はちすぞやと、爪繰つまぐる数珠の百八に、涙の玉の数添ひて、尽きせぬあはれ、尽きる道、心も空も影暗く、風しんしんたる曾根崎の森にぞたどり着きにける。




二階の窓から

http://from2ndfloor.qcweb.jp/classical_literature/sonezakishinju.html
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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月14日 23:33
    > mixiユーザー この出だしの箇所は格別ですよね。しみじみしじみ!

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