現代美術界の巨匠と言われるゲルハルト・リヒターの半生を、ドイツ激動の時期に絡めて描いた人間ドラマ。
ナチス政権下のドイツ、叔母エリザベトの影響で幼い頃から芸術に親しむ日々を送っていたクルト。
若く美しいエリザベトは、感受性が豊かすぎる故に精神のバランスを崩して強制入院、その頃のナチの優性主義によって、ガス室に送られる。
成長したクルトは美大に入ってエリーと恋に落ちるが、エリーの父親はナチスの高官で、かつてエリザベトを死に追いやった張本人であった。
クルトはそれを知らないままにエリーと結婚し、芸術活動が制圧される東ドイツから西ドイツへと逃げ、創作に没頭するが…
「善き人のためのソナタ」(06年)のフロリアン・ドナースマルク監督作というので、鑑賞しました。
今も健在のゲハルト・リヒターに交渉した結果、映画化の条件は、人物の名前は変えること、何が事実か事実でないかは絶対に明かさないこと、だったのだそうです。
奇しくも今月に入って、ポーラ美術館が彼の作品を30億円で落札して話題になったばかり。
3時間超の長尺のこの映画、見応えはあるのですが、どういう方向性なのか観ていてもさっぱり分からないのです。
ナチの優性主義を糾弾したいのか、社会主義下の不自由な芸術体制を批判したいのか、愛する人を殺めた人間に対する復讐劇なのか、恋に落ちた若者の愛欲生活を描きたかったのか、はたまた60年代のドイツの現代アートの軌跡を紹介したいのか?
或いはそれら全部、と言えるのかもしれません。
リヒターの叔母がナチスの障害者安楽死政策で命を奪われたこと、妻の父親がナチ高官で安楽死政策の加害者だったことは事実なのだそうです。
歴史の過ちや運命のいたずら、戦中戦後のドイツの変遷、芸術家の産みの苦悩、そういったものをドナースマルク監督は、リヒターの生涯に全部重ねて描きたかったのか?
こんなに骨太な作品に、激しいベッドシーンが何故あんなに多くあったのかも疑問ですが、創造の根本はその営みにあるとでも言いたいのでしょうか?
英題は『Never Look Away』、「決して目を逸らさないで」というような意味らしい。
この言葉は叔母エリザベトの言葉として、作中に何度も出てきました。
公式HP
https://www.neverlookaway-movie.jp/
クルトの芸術家としての成功というのをメインにするなら冒頭の叔母のくだりはもっと割愛してもいいと思いました。
個々のエピソードが割とありがちな(基が伝記ベースだから仕方ないかもしれないですが)のも何かパッとしません。
義父はクルトの過去に気が付いたようですが、逆は気づかないままなのか…。
叔母のくだりを生かすなら、その重みと妻との間で葛藤するとか欲しいような印象も…。
そして3時間はやはり長く感じました。
これが事実というのに驚きます。
何が言いたかったか…
ですよねえ?やっぱり。
あれだけの伏線を引いて、回収されないままに終わってしまいましたね。
事実だから仕方ないと言われたら、それまでなのですが。
義父は、クルトの父親が自殺するような弱い人間だということが許せなかった、
その血筋を断つために娘にあんな酷いことをした。
西ドイツの医者に診てもらって、娘もある程度分かったようなのに
父親を拒絶しなかったのか?理解できません。
あれ、2時間に短縮できたよねえ?
ナチスのガス室、ソ連下の東独からの亡命という前半はある意味、どこかでも聞いたような話なのですが、私は後半ががぜん面白かったです。
制約の中で描いていた主人公が、何でもOKというか、独自の世界を見出すまでの葛藤、芸術家ってこういう苦労をするのねって。
父親の娘への行為は、彼から引き離せば別の男と結婚するかも?という期待の下でした手術の失敗ということなのじゃないかしら。娘から言えば酷い父親だけれど、やはり父親には違いないわけで、拒絶までは至らなかったのかと。
私は楽しみましたが、たしかに2時間には出来たかもしれませんね。
ご紹介作も、映画館で観たいなぁ!
ポーラ美術館、なんと今週の話です。
https:/
tamaさんの感想も拝読しました。
私は前半の方が楽しめました。
これどうなるの?とワクワクしましたが、伏線は収束されることなく尻つぼみで…
>彼から引き離せば別の男と結婚するかも?という期待の下でした手術
ええ、それもありますが、血筋を絶やすためとハッキリ言っていたシーンがあったのです。
ナチの優性思想がまだ刷り込まれているのだと、ぞっとしました。
これを見たシネシャンテで、「異端の鳥」のあのポスターも、予告編も観ました。
カンヌで中途退出者が続出したという話題作。
来週観ようかどうしようか、あまりにもツラそうで、気にはなるけれど迷っています。
世界的に有名な美術作品が山ほど出てくるし、画面も印象派の絵のように綺麗ですので、
映画館をお勧めします。
これだけ長くてDVDだと、私は集中力が持ちそうにありません。
ジャン・ジャンセン、フランス人だと思っていました。
東欧出身だったのですね。
あのエッチングのような、裸婦の絵が好きです。
そうでしたか。
アルメニア人の大虐殺については、映画を観ました。
よかったら
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映画館って締め切りの空間かと思っていましたが
実は凄く換気がよいのですって。
数分で全館の換気ができるのだそうです。
まだ空いていますし、みんなマスクしてますし、検温消毒もしまくっています。
そうはいってもこればっかりは人によりますものね。
感想拝見しました。
星五つですか!?
導入部のエリザベトのエピソードには、私はドキドキしたのですけど。
エリーの父親への復讐が結局なにもなかったようで、少々尻つぼみのように感じてしまいました。
>ストーリーの締め方も肩に力が入っておらず、快い終わり方であった
そういう観方もあるのですね。
結局、私は現代アートにあまり感じ入ることがないということかもしれません。
ヨーゼフ・ボイスの俳優が小柄だけどそっくりさんで、きゃー出てきた!なんて心が小躍りしてしまったし。あのお辞儀の場面も、あ、しっかり細かいところまで抑えてるな、ふんふん、て感じ。
バスの「パァーン」は感覚的に生きた叔母様の思い出なんでしょう。その感覚の中に浸る時、私たちは自由になれるんだと思います。それが狂気と呼ばれることもあるってことです。
現代美術に興味が薄い方には、しんどい映画かもしれませんね。馴染みが無いですものね。
でもなぜ日本人は海外で現代美術を見ないのかなって、いつも不思議に思います。普通の美術館でも有名な作品しか観ないのよ。知らないアーチストも見ないと、いつまでたっても知識が広がらないのにね。
あ、それにご本人が存命中、凄い変人とか、女たらしとかでは無いので、あまりフィクションには出来ないだろうし、そうすると大団円にはならないですよね。
これ、テレビで充分な作品だと思います。
なるほど。
現代アートが好きな方には堪らない作品でしょうね。
私は導入部のエリザベトのシーンがあまりにも強烈だったので
話はそれを軸に廻っていくに違いない!と思い込んじゃったのですよ。
まだ存命中の有名人の生涯を描くというのは、確かに難しいでしょうねえ。