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2020年08月02日10:30

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「平場の月」

中学の同級生であった二人の男女(青砥と須藤)が地元で三十数年ぶりに再会したことから始まる、50代の恋愛小説です。
ともにバツイチ、触れられたくない過去や、老親や、病気やしがらみなど色々なモノを抱えていて、惹かれ合ったからといって若者のようにすぐに燃え上がることはない。
しかし、孤独を恐れる気持ち、相手をいとおしみ、一緒にいたいと思う気持ちは若者も中年も変わりはない、その二人の心情が綴られていきます。

かなり変わった文体です。
書き出しが
”病院だったんだ。昼過ぎだったんだ。おれ腹がすいて、おにぎり喰おうと思ったんだ。おにぎりか、菓子パンか、助六か、なんかそういうのを買おうと売店に寄ったら、あいつがいたんだ。おれすぐ気づいちゃったんだ。あれ? 須藤? って言ったら、あいつ、首から提げた名札をちらっと見て、いかにも、みたいな顔してうなずいたんだ。いかにもわたしは須藤だが、それがなにか? みたいな。”
若者用のケータイ小説?何処が中年のしっとりした恋愛話?
と思って読んでいくと、二人の意味不明なブツ切り会話、特に女性(須藤)の乱暴な言葉遣いに更に困惑します。
"「なんだ、青砥か」須藤はちいさな顎を少し上げ、不敵というか、満足げというか、堂々たるというか、そんな笑みを浮かべた。そうだ、それだ。青砥の知っている、須藤の、いつもの、笑い顔だ”
が、二人の出会いの場面。
出て来る小物も、Line、ユニクロ、コンビニ、発泡酒、廃棄処分の弁当、安アパート。
二人の狭い世界から一歩も出ず、閉塞感に息が詰まりそうになります。
どうしてこの小説が山本周五郎賞を?と腹が立ってきます。

ところが読み進むにつれ、なんとも言えない味わいが出て来る。
深刻な病気を抱えて同情されそうになったシーンで、須藤が彼に言う言葉。
「日本一気の毒なヤツを見るような目で見るなよ」。
そして須藤の、多分一番、彼女らしくない台詞は
「青砥には充分助けてもらってるよ。青砥は甘やかしてくれる。この歳で甘やかしてくれるひとに会えるなんて、もはやすでに僥倖だ」
それは何処までも自分で頑張ろうとした須藤の、精一杯の愛情表現だったのです。

須藤の最後の選択には、泣けました。
いくらなんでも分別があり過ぎるだろう!もっと手放しで甘えろよ、須藤!
と、私も乱暴な言葉で責めたくなりました。
久々に、余韻が残る恋愛小説でした。

「平場の月」 https://tinyurl.com/yxlwku72

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