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2020年07月21日13:36

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「セヘルが見なかった夜明け」

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小さな薄い本です。
短い12の短編が入っています。
著者のセラハッティン・デミルタシュはトルコのクルド系民族出身で、現在も政治犯として服役中ということです。
そんな人が書いた本として読むとなると、嫌でも少々身構える気になります。
しかし第一章は刑務所に住みつく雀の夫婦を擬人化した軽い話で、少々肩透かしを食らう訳ですが。


12の短編中、何といっても表題作の「セヘル」が印象的でした。
こちらだけネタバレします。
22歳のセヘルは、縫製工場に自宅から通う、純真な娘です。
工場の同僚ハイリに密かに恋心を抱いていたが、一度お茶をしただけという関係。
そのハイリがある日工場の帰りに、セヘルを車で送って行くという。
セヘルが車に乗ると、そこにはハイリの男友達2人も乗っており、そしてセヘルは森に連れて行かれて、輪姦されます。
破かれた服、血だらけの体でセヘルがようやく家に帰ると、母親は泣いて娘を抱きしめます。
静かにお湯で清められたセヘルは、初めて絶叫し、号泣する。
異様な様子で帰宅したセヘルを見、その絶叫や号泣を聞いた隣人がセヘルの父親に連絡して、父親、兄がすぐに帰宅する。
セヘルの伯父たちも集まってきて、親族会議が開かれる。
母親が必死にセヘルを守ろうとすると、セヘルの兄ハーディが「首を突っ込むな、母さん。俺たちの名誉の問題なんだ」と。
そしてセヘルは再び森に連れて行かれ、家族によって銃殺されるのです。


父親はセヘルの弟、15歳のエンギンに銃を渡す。
”セヘルは地面に跪いた。
エンギンは姉のうなじに銃口を押し付けた。銃身は震えていた。
「エンギン、あんたにこの身を捧げるからね。怖がるんじゃないわよ。
(中略)牢屋に入ったら身体に気をつけるのよ」と幼い弟を元気づけた。”


いやはや。
「名誉殺人」(honor killing)とは、
”婚姻拒否、強姦を含む婚前・婚外交渉、「誤った」男性との結婚・駆け落ちなど自由恋愛をした女性、さらには、これを手伝った女性らを「家族の名誉を汚す」ものと見なし、親族がその名誉を守るために私刑として殺害する風習。
アムネスティ・インターナショナルは、名誉殺人が行われている国および地域として、バングラデシュ、トルコ、ヨルダン、パキスタン、ウガンダ、モロッコ、アフガニスタン、イエメン、レバノン、エジプト、ヨルダン川西岸、ガザ地区、イスラエル、インド、エクアドル、ブラジル、イタリア、スウェーデン、イギリスを挙げている”(Wikipedia)
上の説明で列挙された国の中にイタリア、スウェーデン、イギリスが入っているのは
欧州へ移民が広がっているからということのようです。


イスラム圏の本や映画にしばしば出て来る「名誉殺人」。
この場合エンギンが牢屋に入るということは、一応無罪放免ではないのか。
それでも、それほど重い罪ではないようです。
トルコはイスラム圏の中でも非常に寛容な国と言われ、実際トルコを旅行した時も女性は肌を露出した服を着ていた人も多かったし(観光客も多いでしょうが)、アルコールなども自由で、街は活気に溢れていました。
そのトルコで、今年になってまだこんな本が書かれたとは・・・
トルコの中でも、クルド人地域は特殊であるという説もあるようですが。


「セヘルが見なかった夜明け」 https://tinyurl.com/y5x6y4fh

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