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2020年01月15日20:36

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「しょうがない人」

一人暮らしをしている著者のもとに、派出所から電話がかかって来る。
父親が無免許でバイクを運転して捕まり、身元引受人として迎えに来て欲しいという連絡だった。
書籍のセールスをしていた父親は博打にのめり込み、サラ金から追い立てられて夜逃げし、一家離散の原因となり、その後も家族に散々迷惑をかけて来た。
好き勝手なことをして家を出て、たまに連絡してくる時は金の無心ばかり。
必ず返すからと言いながら、返したためしがない。
その日も著者はウンザリしながら、派出所にいる父親と電話で話す。

”父親は何か言いかけましたが、咄嗟に上手い言い訳を思いつけなかったのでしょう、すぐに口籠り、随分長い間黙り込んだ後にようやく「申し訳ない」と呟きました。
「もういいよ。とにかくあんたは今無免許でドジを踏んで捕まって、
オレが迎えに行く他ないんだろ」
「うむ…」
「行くよ。行けばいいんだろう」”

著者はそれまでの父親の姿を思い起こし、嫌々派出所には行くものの、
事務的な手続きだけをして、徹底的に父親を無視しようと心に誓う。
年中サラ金から追い立てられ、家族に迷惑ばかりかける父親をつくづく情けなく思う。
しかし派出所で、うなだれる父親を執拗に叱り続ける若い警官を見て
「おいッ!おまえ…」
「おれのおやじを…何だおまえは!おれの、おやじを…」
と叫んで、嗚咽を漏らしてしまうのです。

情けない父親にも、かつては頼もしく輝かしい時代があった。
今はどんなにみすぼらしくても、家族には忘れられない過去がある。
憎みたいと思っても見捨てたいと思っても、中々できるものではない。
親子って切ないなあとつくづく思います。

原田宗典は他にも何冊もこの父親のことを小説に書いており、これはどうも私小説のようです。
原田宗典は、原田マハの兄。
つまりこの「しょうがない人」は、最近私が読みこんでいる原田マハの父親でもあるのです。
元ニューヨーク現代美術館のキュレーターであり、NYやパリやロンドンを舞台にした
華麗なアート小説「ジヴェルニーの食卓」「楽園のカンヴァス」「暗幕のゲルニカ」など次々と書いている原田マハの。
英語が堪能で美術に造詣が深く、日本人にしてMOMAのキュレーターになるなんて
どんなに恵まれた家に生まれたお嬢さんかと思っていました。
驚きました。

しょうがない人 https://tinyurl.com/suqvutw

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