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2021年06月11日09:35

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「アイアンドーム」は鉄壁のバリアか イスラエル防空の要が日本では使えなさそうなワケ

 下記は、 月刊PANZER編集部の 2021/06/11 付の 記事です。

                 記

「SFのような」現実の防空ミサイル戦

 2021年5月11日を皮切りに、イスラエルのテルアビブをはじめとする主要都市には空襲警報のサイレンが鳴り響き続けました。そのたびに人々はビルの地下室などの防空壕に避難することを強いられますが、空にスマホを向けることも忘れない、良くも悪くも「訓練された市民」です。ビルが立ち並ぶ市街地上空には何条もの対空ミサイルの飛翔煙がのび、花火のような爆煙が空に拡がります。

 交戦状況は動画サイトに投稿され、「現実離れした」「SFのような」と比喩される夜間の映像は幻想的でさえあります。とはいえ上空を飛び交っているのは「実弾」です。

 同年5月10日に東エルサレムで、パレスチナ人とイスラエルの警官隊が衝突、これをきっかけにパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、報復としてイスラエルのエルサレム方向にロケット弾を発射しました。約1週間で3000発以上、発射されましたが、市街地に到達したのは1500発、人口密集地に着弾したのは100発以下で、1400発以上はイスラエル軍の防空システムによって迎撃されたといわれます。その防空システムが「アイアンドーム」。近距離を飛翔するロケット弾や砲弾、迫撃砲弾を空中で迎撃するCounter-RAMと呼ばれるカテゴリーの、イスラエル製地対空ミサイルです。

 ハマスは国家組織体ではありません。イスラエルと対立するイランなどの国家から援助を受けているとはいえ、ロケット弾を3000発も用意して発射するのは並大抵ではなく、相当な覚悟と政治的アピールを狙ったことは明らかでした。

 ところが人口密集地に着弾したのは約100発、命中率3%では、とても目的を達したとはいえません。それよりもイスラエルによる空爆など報復攻撃の被害の方が大きく、5月20日には停戦します。もちろん、「アイアンドーム」の果たした役割は小さくありません。

「鉄の天井」で都市を守る
「ピストルの弾を別のピストルの弾で撃ち落とそうとするものだ」

 かつて弾道ミサイル防衛に関し、その実効性に疑問視する向きからはこのように揶揄的に言われたものですが、「アイアンドーム」はその弾道ミサイル防衛と同じ発想の、飛んで来る砲弾、ロケット弾などを近距離で迎撃できる地対空ミサイルです。「ピストルの弾を別のピストルの弾で撃ち落とそうとする」ことは可能でした。

「アイアンドーム」は指揮管制ユニット、EL/M-2084探知/追跡レーダー、対空ミサイル「タミル」を装填した20連装ミサイルランチャーによって構成され、各ユニットは牽引やトラック積載で簡単に移動できます。1台の指揮管制ユニットとレーダー、3基から4基のミサイルランチャーで大隊規模の1個編成となり、これを基本単位とし、セキュアワイヤレスでリンクされます。

 2005(平成17)年から開発が始まり2011(平成23)年3月27日に最初の大隊が配備されました。その年の4月7日に早速、ガザ地区から発射されたロケット弾の迎撃に成功、ARMY TECHNOLOGYという軍事情報サイトによると、実戦の命中率は90%とされています。現在イスラエル国内には10個大隊が配備され、15個大隊まで増やされる予定といわれます。1個大隊分の「アイアンドーム」、イスラエルでの調達費用は5000万ドル(約54億円)、タミルミサイルは1発4万ドル(約440万円)となっています。

 日本も弾道ミサイル防衛システムとして、イージス艦搭載のスタンダードミサイル、地上配備のPAC3(パトリオットミサイル)を配備しています。この5月の、一連のできごとを受けてか、早速「アイアンドーム」を日本にも、という意見が散見されるようになりました。とはいえ、日本で採用される可能性はほぼありません。

高性能のはずのアイアンドームだけど米軍が導入に二の足をふむ理由
 日本で「アイアンドーム」の採用される可能性がほぼない理由は、これがイスラエル用に特化されたシステムだからです。射程が100kmから150km四方と中途半端で、イスラエルのような小国の都市防衛向けです。迎撃率90%と言われますが、迎撃範囲は限定され高価値地域以外に落下すると識別されたものは迎撃しません。無駄弾を撃たないので迎撃率の数字は上がります。5月の実戦ではイスラエル領内に飛来した約3000発のうち、半分の1500発は着弾しても被害が少ないと識別されて、迎撃されていません。

 かつてアメリカ陸軍が「アイアンドーム」の実績に注目し、ロケット弾や迫撃砲弾に悩まされる海外キャンプ防御用に2個大隊分、導入しました。しかし2021年現在、2個大隊ともアメリカ国内に留め置かれています。指揮管制システムがイスラエル規格となっており、アメリカ陸軍の規格と整合性が悪く、使い勝手が良くないようです。話題性のせいかアメリカ議会では追加導入に積極的ですが、陸軍は逆に消極的です。

 ハマスが使用したロケット弾は1発7万円から10万円、迫撃砲弾は1万円しないものもあります。これを1発4万ドル(約440万円)のタミルミサイルで迎撃していては、コストパフォーマンスは最悪です。人口密集地に着弾して被害を出すよりはるかにマシなのですが、近距離で迎撃できても破片は降り注ぎます。リスクはゼロにはならないのです。そのためにイスラエルは都市に防空壕を用意しています。

 ハマスがこれ以上、ロケット弾の飽和攻撃を仕掛けてきたら「アイアンドーム」でも限界があります。そこでイスラエルは空爆を開始し、境界線に戦車を押し立てて地上軍を進めました。つまり、これ以上の攻撃には容赦しない、という姿勢を見せたのです。これが抑止力の本質です。防衛というのはいくら高性能な兵器でも単品で達成できるものではありません。

 イスラエルの兵器は、よく実戦を戦い高性能、強力なイメージがありますが、それはイスラエル軍がイスラエルで使うように最適化され使いこなせる体勢にあるからこその威力です。「アイアンドーム」を日本に持ち込んでも、使い物になるかはわかりませんし、多分、使えません。
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