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2021年06月09日17:13

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北の新たな核ミサイル活動の形跡  安全保障問題専門家 元国連専門家パネル委員・古川勝久

下記は、2021/6/9 付の 正論 です。

                 記

北朝鮮の平壌市から北へ約7・6キロ進むと行政区・山陰洞がある。ここにミサイル関連施設が集積する。銀河3号ロケット(事実上の長距離弾道ミサイル)や2017年7月に発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星14型もここで製造されたとみられている。

当時、金正恩朝鮮労働党委員長が施設内のICBMとロケットを視察する様子が朝鮮中央テレビで放映された。国連専門家パネルの衛星画像分析によると、20年1〜6月、北朝鮮がコロナ禍に苦しむ間も、施設周辺で車両の活発な動きや大型コンテナ搬入等の動きが確認された。

砂山とICBMの関係
ここで特異な動きが同9月以降、顕著になった。金氏が訪問したミサイル製造施設は「コ」の字形の大型建屋で、中央部に貨物搬出入用の広場がある。この広場に突如、複数の砂の小山が出現した。11月初めまでに約10個の小山ができたかと思うと、ほどなく取り崩されて、約1週間後、砂は平地状に整地された。でき上がった平地はL字形で、高さは推定約1メートル。12月末、何の行事なのかここに人が集まっていた。やがて21年4月、平地は段階的に削り取られ、5月初めまでに消滅した。

なぜミサイル関連施設で大量の砂が必要だったのか。砂はコンクリート材料として地下施設建造にも使われうるが、それには量が少なすぎたとの印象だ。ある米国人専門家は指摘する。「砂は、新型ロケット・エンジン用部品の鋳造・成型に使用されたのでは」

一般的に、複雑な形状の部品を鋳造する際、鋳型の作成に砂が使われることが多い。より精緻な検証が必要だが、無害に見える砂山すら、新型ICBM用エンジンの開発・製造の傍証なのかもしれない。が、衛星では屋根の下は見えない。真相解明には建物内部での査察しかなさそうだ。

新型ICBMとおぼしき痕跡は他にもある。先の大型建屋から南東方向のほど近くに運動場のような大広場がある。21年1月と5月に撮影された衛星画像には、ここを大型車両が通過した轍(わだち)が写っていた。轍の全幅は推定約3〜4メートル。ちなみに新型ICBMが20年10月10日の平壌市内の軍事パレードで登場したが、その移動式発射台も横幅が推定約3〜4メートルだ。同サイズの大型車両の走行跡のように見える。

21年1月、朝鮮労働党は第8回大会で新・国家経済発展5カ年計画を採択、「水中および地上固体エンジン大陸間弾道ロケットの開発」の推進を決めた。北朝鮮にとり新型ICBMと移動式発射台の開発・生産は国家的重要課題だ。

核物質、増産中?
米国や韓国の情報機関は、北朝鮮のICBM計画で山陰洞の関連施設が今も重要な役割を担うとみているようだ。新型ICBMシステムの姿は見えずとも、その痕跡はうかがえる。ただ、衛星画像だけでは全容把握は難しい。

寧辺の核関連施設群でも動きがみられる。米国の戦略国際問題研究所の研究者チームは、衛星を用いて寧辺の様々な核関連施設の放射温度を計測・解析した。その結果、少なくとも21年3〜4月半ばの間、使用済み核燃料再処理施設やウラン濃縮施設等の主要施設が稼働中だった事実を突き止め、兵器級核物質が生産された可能性を指摘した。他方、北朝鮮分析サイト「38ノース」の専門家はそれ以外に、過去の核物質生産工程で排出された放射性廃棄物が処理された可能性もあると指摘する。

ウラン濃縮施設のすぐ東側に貨物列車用の駅がある。5月14日時点の衛星画像を見ると、ここにキャニスター(金属製保管容器)を約10個積んだ貨物列車が停車していた。容器の長さは約2〜3メートル。同サイズのキャニスターは、廃棄物輸送のほか、ウラン濃縮に用いる六フッ化ウランの輸送にも使われる。もし後者ならば、濃縮ウラン増産中を意味する。

北朝鮮は核物質を生産中なのか、それとも廃棄物を清算中なのか。いずれにせよ、確かなことがある。寧辺の研究開発地区では新たな建設作業が進行中だ。19年2月、ベトナム・ハノイ市開催の米朝首脳会談の際、金正恩氏は当時のトランプ米大統領に寧辺の核施設凍結を提案したが、これは取り下げたらしい。

米朝交渉再開の課題
18年以降、北朝鮮は核実験やICBM発射試験を一時中断したが、核・ICBM計画は着実に進展させた。20年初頭以降、新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が懸念された間も、核・ミサイル関連施設では活動が止まらなかった。

北朝鮮が核・ミサイル戦力を今後も増強し続ければ、時間がたつにつれ全容把握はより一層困難となる。もし仮に将来、北朝鮮が核・ミサイル計画の凍結・廃棄に同意しようとも、そもそも全容不明では合意が着実に履行されたか、米側が検証するのは難しい。

北朝鮮の完全非核化のために、まずは核・ミサイル関連施設の動きを一日も早く止めて、現地に査察団を送り込むことが火急の課題である。(ふるかわ かつひさ)


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