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2021年02月03日12:11

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アメリカは「一枚岩」ではない 評論家・江崎道朗

 下記は、2021.2.3 付の 正論 です。

                  記

 ≪共和党と民主党は違う≫

 今回の米国の大統領選挙に対する日本人の関心はかつてないほど高かった。

 いくら同盟国とはいえ、米国の大統領選挙や政権交代に一喜一憂すべきではないとの意見も聞く。だが世界最大の軍事・経済大国の指導者が代わると国際政治も日本も多大な影響を受ける。米国の行方に強い関心を向けるのは当然のことだ。

 その一方で米国の政治の仕組みについて日本側の理解は必ずしも深まっていないようだ。米国は基本的に二大政党制で、共和党と民主党が争ってきた。だが、この2つの政党の違いを明確に理解している人がどれほどいるだろうか。

 共和党はどちらかと言うと、減税と規制緩和による経済活性化や軍事を重視する保守系だ。支持層は、中小企業の経営者や熱心なキリスト教徒たちだ。民主党はどちらかと言うと、格差是正や環境といったテーマを重視しており、リベラル系だ。支持層は都市部のインテリ層、黒人やヒスパニックなどのマイノリティー(少数派)、そして労働組合だ。この基本政策と支持母体の違いが対外政策にも影響する。

 1月20日、民主党のジョー・バイデン氏が大統領に就任した。共和党のトランプ政権から、民主党のバイデン政権に代わったわけだが、米国の対外政策はどう変わっていくのか。その判断材料となるのが国家安全保障戦略だ。

 ≪「世界の警察官ではない」へ≫

 この20年を振り返ると、政権交代のたびに変更される国家安全保障戦略に伴って米国の対外政策が変わってきたことが分かる。

 2001年に発足したブッシュ「共和党」政権は国家安全保障戦略において「テロとの戦い」を最優先事項とした。具体的にはイスラム過激派のテロこそが最大の脅威だと見なし、中東対策に注力した。

 09年に発足したオバマ「民主党」政権は「テロとの戦い」を引き継ぎつつも、核の脅威を重視し、「核のない世界」を目指した。ただしその一方でオバマ大統領は13年9月、「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と発言し、オバマケアをはじめとする内政を優先させた。その結果、その隙をつく形で中国の軍事的台頭が進んだ。

 19年4月の防衛省作成資料「米国の安全保障戦略」によれば、オバマ政権中に、中国は次のような動きを起こした。

 ・南シナ海の軍事基地の拡大

 ・中国艦隊の西太平洋進出

 ・国産空母の建造、進水

 ・中国潜水艦のインド洋進出

 ・ジブチに海軍基地建設、駐留

 要はオバマ政権の間に中国は急激な軍拡を進め、中国人民解放軍の活動範囲は西太平洋、インド洋、そしてアフリカまで広がったわけだ。

 ≪中国脅威から気候変動対策へ≫

 17年1月に発足したトランプ「共和党」政権はそれまでの戦略を全面的に撤回し、新たな国家安全保障戦略でこう指摘した。

 ・米国の軍事的優位性が失われつつあり、世界秩序がますます混乱する状況に直面

 ・テロよりも大国(中国とロシア)との戦略的競争が安全保障上の主要な懸念

 ・中国は軍の近代化、浸透工作を活用し、インド太平洋地域での覇権、将来的には地球規模での優位を確立し、米国にとって代わろうと企図

 「中国との戦略的競争」への対応を最優先とする同戦略に基づいて国防費を増やし、インド太平洋地域での米軍のプレゼンスを強化すると共に、日米豪印戦略対話(QUAD=クアッド)を推進したわけだ。

 併せてトランプ政権は中国の軍事的台頭を抑止するため、その原動力である経済・技術力を削(そ)ぐことに注力した。中国人の産業スパイ取り締まりや中国通信機器の締め出し、そしてハイテク製品への関税に代表される米中貿易戦争の発動だ。

 では、バイデン「民主党」政権の国家安全保障戦略はどうなるのか。実はバイデン政権にとって最大の脅威は「中国」ではない。新型コロナウイルス感染症、景気悪化、気候変動、人種差別問題の「4つの重複した複雑な危機」を最優先課題として取り組むと、バイデン新大統領は明言している。特に重視しているのが「気候変動」であり、中国の脅威への対応は後回しにされかねない。それはアジア太平洋の安全保障を不安定化させることになろう。

 尖閣が日米安保適用対象かどうかが話題になったが、問われているのは尖閣という個別問題ではない。優先順位をめぐる日米間での国家安全保障戦略のズレをどう埋めるか、なのだ。

 幸いなことに、米国は一枚岩ではない。そして自由で開かれたインド太平洋戦略を重視する米側の政治勢力も健在だ。彼らとも連携し、バイデン政権と対中戦略に関する外交、軍事だけでなく、インテリジェンスや経済安全保障といった分野における戦略対話を始めてもらいたい。(えざき みちお)

 https://special.sankei.com/f/seiron/article/20210203/0001.html
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