下記は、2020.7.1 付の 産経抄 です。
記
英国統治時代の香港総督は代々外交官出身者が任命されてきた。ところが中国への返還を5年後に控えた1992年、英国はまったく違うタイプの人物を「最後の総督」に選んだ。
▼クリストファー・パッテン氏は、保守党幹事長として、総選挙を勝利に導いたばかりだった。自らは落選したとはいえ、将来の首相候補の呼び声もある大物政治家である。返還までおとなしくしているわけがない。
▼案の定、着任早々に香港の立法評議会選挙の改革案を打ち出して、中国を激怒させた。「千古(永遠)の罪人」「東洋の娼婦(しょうふ)」…。中国当局者や共産党の機関紙から、罵(ののし)りの声が上がった。英政財界や香港財界にも手が回った。中国の巨大市場に目がくらんだ同調者の妨害にも悩まされる。
▼パッテン氏はねばり強く闘い、なんとか95年に民主選挙が実現する。それでも香港時代の回顧録『東と西』で嘆かずにはいられない。英国が経験した数多くの植民地からの撤退のなかで「民主主義を後退させ市民権を弱める唯一の例」となってしまった、と。
▼その心配が現実となった。中国の全人代は昨日、「香港国家安全維持法」案を全会一致で可決した。香港返還から23年となる1日を前に施行され、中国本土と同様に集会や言論の自由が認められなくなった。共産党政権に批判的な活動は、犯罪として取り締まりの対象となる。パッテン氏が擁護してきた「人権」と「法の支配」の完全な否定である。
▼小紙の電話インタビューに応じたパッテン氏は「悲しい日」と表現していた。「全体主義」に回帰した中国の習近平体制に対して、トランプ米大統領は同盟国をまとめきれていない。パッテン氏の危機感は、『東と西』の執筆時より高まっている。
https://special.sankei.com/f/sankeisyo/article/20200701/0001.html
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