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2020年04月02日11:23

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コロナで露呈「習近平vs.中国人」の危うい構造 「アメリカに謝ろう運動」を呼びかける声も

 下記は、2020/04/02 付の 東洋経済オンライン に寄稿した、宮崎 紀秀 氏の記事です。

                記

新型コロナウイルスの蔓延に直面し、ある著名な人権活動家は、「(中国当局は)天安門事件以来の空前の社会不安と認識している」と指摘した。厳しい行動制限など国民の誰もが自国発の感染症の影響を受ける中、中国当局と市民の攻防が密かに幕を開けた。今、中国で何が起きているのか――。『習近平vs.中国人』の著者である宮崎紀秀氏に解説してもらった。

「アメリカに謝ろう」運動の始まり

 「最大の過ちは、中国共産党に嘘をつくのを許し、私たちがそれに反対の立場を表明しなかったことです」

 カメラを見て英語で話す若い女性。水色のマスクで顔の半分は覆われているが、2つに結った髪と意志の強そうな瞳の色から東洋人であろうと想像がつく。

 「私は中国人です。だから、中国人と政府がやった悪いことのすべてに責任があります」

 この映像がツイッターで出回り始めたのは3月20日頃。女性は海外に住む華僑とされる。話の内容から居住地はアメリカと思われる。

 中国はその頃、初期の急激な感染拡大が一段落し、新型コロナウイルスを国内と国外で拡散させた責任をあいまいにするかのような宣伝を繰り返していた。ニュースでは、新たな感染確認者は、国内では抑えられたが、海外から流入が続いているなどといった状況が連日強調された。中国外務省の現役報道官である趙立堅氏は、ウイルスの発生源について「アメリカ軍が武漢に持ち込んだかもしれない」などと英語でツイートした。

 冒頭の女性は、ツイートした1分50秒程の映像の中で「アメリカに謝ろう」運動(#saysrytoAmerica)を始めようと呼びかけていた。

 「中国ウイルスをアメリカに持ち込んだことを謝りたい」

 中国ウイルス(Chinese virus)とは、新型コロナウイルスのことで、アメリカのトランプ大統領が使って、中国を激怒させた言い方だ。

 彼女は、中国外務省の報道官の“主張”にも、真っ向から反対している。

 「ウィーチャット(=中国のSNS)でデマを拡散させたことについて謝りたい。アメリカ軍が武漢にウイルスを持ち込んだという話は誤りです」

 ツイッターには、彼女の言葉を繰り返す中国人とみられる若者たちが続いた。

 中国政府が、原因不明の肺炎患者から新型コロナウイルスが検出されたと正式に認めたのは1月9日だった。しかし、人々を救おうといち早く警鐘を鳴らしたのは中国当局ではなかった。市民だった。

 感染の「震源地」、湖北省武漢にある武漢市中心医院の李文亮医師(享年34歳)はその1人である。李医師は、まだ中国政府が新型コロナウイルスによる肺炎の発生を公式に認めていなかった去年12月30日の段階で、「市場で7人のSARS(重症急性呼吸器症候群)感染が確認された」などの情報を、グループチャットに発信した。同僚の医師たちに防疫措置を採るよう注意喚起するのが目的だった。

 感謝されてしかるべき行為であるはずが、4日後の1月3日、彼がその勇気ある行動によって受けたのは賞賛ではなく、地元警察からの呼び出しだった。

 「グループチャットに流したSARSの情報は正しくなかった。今後は注意します」

 警察で反省させられたうえ、訓戒処分を受けた。彼は、その後も同医院で治療を続けたが、新型コロナウイルスに感染し、2月7日帰らぬ人となる。34歳の若さだった。

怒りの声に中国当局も無視できなかった

 李医師が、感染症の発生に注意喚起したにもかかわらず、処分を受けていた事実が明らかになり、国内でも怒りの声が上がった。インターネット上では、不正などの内部告発者を意味する英語のホイッスルブロワーを中国語に訳した呼称で彼をたたえた。

 その世論は、中国当局も無視できなかった。最高の監察機関である国家監察委員会が事実関係の調査に乗り出すが、その調査結果が出たのは3月19日。同医師の死後1カ月以上経った後だった。

 調査では12月中に武漢市内の複数の病院で実際に原因不明の肺炎患者が運ばれていた事実などにも触れ、李医師の処遇について「警察が訓戒書を作ったことは不当であり、法執行の手順も規範に合っていなかった」と結論づけた。

 そのうえで、警察に対し訓戒書の取り消しと関係者の責任追及などを求めた。

 この結果以外に、国営新華社通信が、調査チームとの質疑を報じた。その中で、李医師の情報発信が、社会にどのような作用を与えたかとの質問に対して、調査チームはこう回答している。

 「一部の敵対勢力は中国共産党と中国政府を攻撃するために、李文亮医師に体制に対抗する“英雄”“覚醒者”のラベルを貼っている。しかし、それは事実にまったく合わない。李文亮医師は共産党員であり、いわゆる“反体制人物”ではない。そのような下心を持つ勢力が、扇動したり、人心を惑わせたり、社会の不満を挑発しようとしているが、目的を達せられないことは決まっている」

 おそらくこの調査結果の最大の目的は、李医師の行為は中国政府や共産党の正しさに沿うものだと、国民を納得させることだ。だが、この調査は重要な点に触れていない。李医師が訓戒によって口をつぐんでしまった事態が招いた重大な結果、すなわち、「情報隠し」が引き起こした感染拡大だ。とくに、医療関係者の防疫が後手に回ったために、武漢では医療崩壊が起きた。

 李医師に発熱の症状が出たのは、後に新型肺炎で死亡する患者を診た10日後だった。李医師は、それから1カ月を待たず死亡する。

 李医師がグループチャットに感染症の発生情報を流し、注意を促したのは12月30日。その患者を診たのは1週間後の1月6日である。もし病院や行政当局が、李医師の発信に対し「訓戒」ではなく「対策」を採っていたら、34歳の若者の命は失われずにすんだかもしれない。同医院では、5人の医療関係者が死亡している。

 李医師の同僚の女医、艾芬(アイ・フェン)医師も原因不明の肺炎の発生を知りながら、上司や警察の圧力を受け、結局口をつぐんでしまった1人だ。彼女は中国メディアのインタビューに、もし発信し続けていれば「このような多くの悲劇は起きなかった」と悔やみ、当時の経緯をつまびらかにした。その記事は、発表直後、ネット上から削除された。

防疫対策の成果をアピール

 3月10日、習近平国家主席は感染拡大以来、武漢を初めて視察した。感染を封じ込めつつあるとして、防疫対策の成果をアピールする意味があった。国営メディアが大々的に報じる中で、習主席は、医療従事者を「希望の使者であり、真の英雄」などとたたえた。

 先の艾芬医師のインタビュー記事が発表されたのは、この習主席の武漢訪問と同じ日だった。武漢の最前線で働く医師として紹介された。しかし、記事の原文とそれを転載したSNSの書き込みなどは、わずか3時間程でネット上から削除された。

 なぜなのか。記事が、以下のような事実を明らかにしたからである。

 艾芬医師は、武漢市中心医院の救急科主任。去年12月30日の段階で、感染症の発生に気づき、グループチャットで同僚らに警告した。李文亮医師が仲間に転送したのは、実は彼女が発したこの情報だった。

 このために艾芬医師は、上司からは専門家がデマを流したと叱責され、「これまで経験したことのないような厳しい訓戒処分」を受けたという。インタビューからは、彼女がとても落ち込んだ様子が伝わる。さらに、武漢市の衛生委員会の通知として、情報を口外しないよう口止めされた。

 「原因不明の肺炎について、勝手に外部に公表して、大衆にパニックを引き起こさないように。もし情報漏洩によってパニックが起きたら、責任を問う」

 家族にも真実を言えなかった。夫や子どもに対し、人の多い所には行かないよう、外出するときはマスクをして、と注意するのが精一杯だった。

 病院の中も同様だった。ある医師は、外側に防護服を着るべきだと提案したが、病院は、防護服はパニックを引き起こすとして認めなかった。彼女は部下である救急科の医師には、白衣の下に防護服を着用するよう求めたというが、まったく理にかなっていなかった。

 「もし1月1日に皆が用心できていれば、このような多くの悲劇はおきなかった」

 この記事は、一度は削除されたが、市
民は黙ってはいなかった。元の文章や一部の文字を、ほかの言語や絵文字、暗号などに置き換え転載した。当局の検閲を逃れるためだ。甲骨文字版や漫画版もある。国民の生死に関わる事態にあっても真実を隠蔽しようとする国に対し、一矢を報いた形だ。

 人々は、そうやって検閲の目を逃れ、彼女の言葉を共有した。

 「立ち上がって本当の話をする人がいるべきだ。この世界には、多様な声があるべきだ」

中国の体制に疑問の声

 未知なる感染症の拡大という非常事態に直面し、中国の体制に疑問の声が上がる。

 人権派弁護士としての活動を理由に1年半にわたる身柄拘束を受けた経験を持つ謝燕益氏は、中国政府に情報公開を求めた。武漢市で最初に感染確認患者が出たのはいつなのか? 衛生当局は感染症が全国に拡散した場合の危険性の評価などが行っていたのか? さらに刑務所で感染が深刻な事態を知り、政治犯の釈放を呼びかけた。

 習近平氏の退陣を求める「勧退書」を発表したのは許志永氏。民主的な憲政の実現を目指す新公民権運動を提唱し、服役経験もある。許氏は現在、身柄拘束されている。

 著名な人権活動家である胡佳氏は、この許志永氏や、先に触れた李文亮医師らに関する発言などによって、自宅で軟禁状態に置かれている。胡氏はSNSでこう伝えてきた。

 「(中国当局が)恐れているのは社会の動揺です。普通の市民が、歴史を転換させるホイッスルブローワーになることを恐れているのです。李文亮医師のように」

 体制とメンツを死守しようとする、その特殊な社会に翻弄されながらも果敢に立ち向かう庶民の闘いについては拙著『習近平vs.中国人』に詳しく書いた。なぜ、中国が新型コロナウイルスの感染拡大を許し、3000人以上の国民を死亡させ、世界への拡散を招いたのか。その根源的な原因をわかっていただけるかと思う。そして、日本とは違う体制の中にあっても、懸命に生きている私たちと同じような人たちがいることも。

 http://www.msn.com/ja-jp/news/coronavirus/%e3%82%b3%e3%83%ad%e3%83%8a%e3%81%a7%e9%9c%b2%e5%91%88%ef%bd%a2%e7%bf%92%e8%bf%91%e5%b9%b3vs%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e4%ba%ba%ef%bd%a3%e3%81%ae%e5%8d%b1%e3%81%86%e3%81%84%e6%a7%8b%e9%80%a0-%ef%bd%a2%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%81%ab%e8%ac%9d%e3%82%8d%e3%81%86%e9%81%8b%e5%8b%95%ef%bd%a3%e3%82%92%e5%91%bc%e3%81%b3%e3%81%8b%e3%81%91%e3%82%8b%e5%a3%b0%e3%82%82/ar-BB122G27
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