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2019年08月18日22:59

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日本企業による過剰な「GAFA信奉」の愚

 下記は、2019.8.18 付の ダイヤモンドオンライン に寄稿した、中尾真二 氏の記事です。

                       記

 世界中の政府や企業は、巨大IT企業の規制に躍起となっている。対GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字をとったもの)とも見える独禁法の整備、情報銀行によるデータ囲い込み対策が進む。加えて、信用スコアやQRコード決済(キャッシュレス決済)では、BAT(同前Baidu、Alibaba、Tencent)に後れを取るなと言わんばかりに金融からリテールまでがサービスを濫立させている。

 米中の巨大IT企業を模倣するかのような、日本における官民入り乱れた施策には疑問点も多い。データ経済、キャッシュレスは重要トレンドというのはわかるが、必要なのは柔軟性だ。型通りの模倣や規制は、巨大IT企業たちの指針とは真逆であることに早く気付くべきだ。

「Yahoo!スコア」が躓いた理由

 2019年6月、ヤフーがYahoo! IDと紐づけた「Yahoo!スコア」を開始すると発表した。

 この直後にセキュリティの専門家から「スコアのためのデータ収集が自動的に行われ、契約企業に利用されるのでは?」と指摘があった。そしてサイト上でも、スコアリングを拒否する設定がわかりにくく、簡単にスコアデータの収集を停められない状態だった。すぐさまヤフーは状況の説明と、利用拒否手順のリンクをわかりやすくする変更を行った。

 アプリやネット上の信用スコアは、中国都市部では比較的浸透したサービスだ。アリババグループが開発した信用評価システム「芝麻信用」が、ネットやテレビでも取り上げられているため、その存在を知っている人も多いだろう。アプリの利用状況や購買履歴、ログ情報から、その人の信用度を数値化(スコアリング)し、たとえばネットショップでの優待・割引が受けられたり、空港でも優先レーンや優先搭乗が可能なったり、という恩恵が受けられる。信用スコアが高ければ、銀行融資やクレジットの金利が優遇され、行政手続きがスムースになることもあり、中国では、信用スコアが国民の民度向上につながっているという声もある。

 その一方で、公私にわたる膨大かつ詳細なプライバシー情報が、保存・管理されることへの懸念はぬぐえない。「上級国民」と「下級国民」を選別するしくみを企業や行政に持たせていいのか、といった人権や憲法にかかわる問題は大きい。前述したヤフーのスコアサービスが出だしで躓いたのも、この点に対する配慮がなかったからだ。ヤフー側としては、スコア情報を外部に提供する場合は、個別に許諾をとるが、スコアリングするための情報は、既存の利用規約によってヤフーがユーザーに認めてもらっているとして、問題ないと判断したようだ。

 新しく始めるサービスについて、利用可否や意思確認なしに、既存会員を自動的に信用スコアの利用者に組み入れてしまう設定はあまりに乱暴だ。今どきの消費者リテラシーとしては、頼んでいないサービスや商品を「設定しておきました」「差し上げます」などと、一方的に企業から提供されるようなものは、拒否するのが正解だろう。ユーザーに選択や決定権を与えないサービスは、提供する企業やその関係組織に、なんらかの意図があるものと思った方がよい。

中国「信用スコアの成功」は幻想

 信用スコア・信用経済を推進する側は、クレーマーやドタキャンなど、マナーの悪い消費者の排除や、データビジネスの活性化を主張する。あるいは、クレジットカードやローン審査に利用されている信用調査会社を例に、信用スコアの有効性を説く場合もある。

 ユーザーやサービス提供者の相互評価は、CGM(口コミメディア)、フリマアプリや個人売買、シェアリングサービス(UberやAirb&bなど)といった、シーンが限定されたサービスにおいては有効だ。一方で、包括的、統合的な信用スコアには適さない。既存の信用調査や与信調査データは、融資やクレジットのみに用途が限られているから長年機能しているのであって、与信データを企業の採用や給与査定、行政サービスの選別に利用された場合は弊害が多い。

 借金の額や返済状況は、たしかに相手の財力をみる指標になるが、それと仕事の能力、才能、人格、性格は、相関はあっても因果関係の証明にはならないということだ。下手をすると不当な評価になる可能性がある。

 例えば、借金が多い企業が必ずしも経営が厳しいとは限らない。有利子負債が常に数百億、兆の単位であるソフトバンクや、赤字決算をいとわないアマゾンなどの評価は数字だけでは測れない。

 加えて、特定の信用情報の指標が、行政サービスやビジネスに影響するとなれば、そこに特化した対策や不正がはびこることにもなる。これに関しては、例えば、自動車の排気ガス規制や燃費規制があたる。燃費モードに特化した対策が進むと、実用域の排気ガスはクリーンでなく、実用燃費とカタログ燃費に乖離が出る。消費者は、実燃費とモード燃費の乖離を踏まえて、車を選ぶ。自動車メーカーが過剰な燃費効率を追求した末に不正に至ることもある。結果として事業者や基準そのものの信頼性がゆらぐ。

 中国で、信用経済がうまく機能しているように見えるのは、社会のさまざまな部分が成長・拡大局面にある過渡期であることと、都市部やネットリテラシーの高いエリア/ユーザーに利用者が集中しているからだ。

 アリババが運営するECサイト「Tmall」の売り上げの半分は北京上海をはじめとする一級都市、深センや重慶直轄市、杭州、成都などの新一級都市によって賄われている。約13億人といわれる中国人口のうち、半分以上の6億人が農村部に住むとされているが、一級都市と新一級都市の総人口は1億人弱だ。特定市場やコミュニティに対して、特定用途の信用情報にはなりえるが、社会サービスの基盤とはいえない。芝麻信用も、通販などコンシューマサービス向けのスコアにシフトしつつある。信用スコアや信用経済が社会基盤となり、ビジネスや社会的課題を解決するというのは、楽観的な拡大解釈、いってしまえば幻想ではなかろうか。

ビジネスが見えない情報銀行

 信用スコアはビッグデータの新しい応用分野であり、新しい市場を生むという意見もある。もちろん間違いではない。確かに、コンピュータやITを取り巻くビジネスシーンは、ハードウェアからソフトウェアの時代に移り、今はデータの時代だ。データを制するものがビジネスを制するといってもよい。

 ただし、データビジネスの場合、個人情報やプライバシーの問題がついてまわる。その管理責任の重さは十分に経営リスクになりえる。産業界からは、プライバシーへの配慮がデータビジネスや新しい産業の成長を阻害しているとの指摘もあるが、個人情報、プライバシーの保護は、グローバルでは基本であり、これを疎かにする企業は生き残れない。データビジネスは、実入りが大きいかもしれないが、安全な管理に対する相応な投資と深い知見とが必要である。

 以前からビッグデータ活用は、産業活性化やオープンデータといった文脈で取り上げられ、ここ何年も各省庁の予算化案件のひとつになっている。近年では情報銀行がその代表例だろう。

 GAFAに集中する個人情報を、国内企業に取り戻すべく、新しい情報共有プラットフォームを官民で整備し、巨大プラットフォーマーに握られているネットビジネスを解放する。安全に個人情報を管理しながら、マーケットデータを国内ビジネスに還元していく。情報銀行には、GAFA以外の個人情報の受け皿となり、国内のデータビジネスを活性化させる目的がある。

 情報銀行が描くこうした理想的なモデルは、GoogleやAmazonに集中する個人情報やライフログデータを情報銀行に集約し、Googleなど他の企業はそこから必要なデータを購入する形をとるという。そうしないと、巨大プラットフォーマーにデータが集中する構造が変わらないからだ。だが、この戦略にはいくつかの欠陥がある。まず、一般消費者や国民が、情報銀行に情報を提供するメリットが明確でない点だ。

 情報銀行は、既存のオンラインサービスやプラットフォームとは別に、消費者から個別にデータを提供してもらい、そのデータを事業者に販売する。消費者は、データを利用した企業から対価をもらえるが、その対価がギフトカードくらいでは大したデータは集まらないだろう。そもそも、報酬が前提のアンケートでは、バイアスのかかったデータ、あるいは報酬狙いの質の悪いデータしか集まらない。

 集まるデータも、ダイナミックな購買履歴やサイトアクセスのログ、サイト遷移、導線といった情報より、住所氏名、職業、学歴、収入などスタティックなデータがメインとなるはずだ。つまり、GAFAが持つような多面的、網羅的な行動履歴やライフログ情報は集まらず、ユーザーの属性、名簿情報的なものが集まるだけだ。あやしい名簿屋を駆逐する効果はあるかもしれないが、これはビッグデータとは言い難い。

 そもそも、ビッグデータやプライバシーを含む個人情報を、ビジネスの打ち出の小槌のように考えるのも時代遅れだ。AppleにしろGoogleにしろ、いまは必要のない個人情報の収集はリスクとして、集めない方向にシフトしている。また、大手がデータを独占するというが、中小企業がマクロな購買動向やマーケットデータを自分で収集して分析することは不可能である。自社顧客についての分析なら、現状の顧客管理やPOSデータ、経営データで事足りるし、マクロな市場動向や統計分析は、買ってきたほうが早い。

ビジネスモデルの違うプラットフォームを同一視する危険

 GAFAは一般に、Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字をとったものとされる。類語にBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)という中国のビッグ3を示す用語もある。どれも、ネットやテクノロジーをベースに成長してきた企業という共通項はあるが、ビジネスモデルは各社ばらばらだ。国や企業が経営戦略を立てるのに、GAFAとひとまとめにするのは愚かだ。

 Google(Baidu)は検索エンジンをベースに広告ビジネスをコアとする企業。Amazon(Alibaba)はECサイトでありコアはリテールである。Facebook(Tencent)はソーシャルメディアというメディアを軸とした広告モデルだ。Appleはれっきとした製造メーカーであり、ビジネスの軸はハードウェアの製造販売だ。

 これらをひとまとめにして、追いつけ追い越せといったところで、なにを目指すのかによって戦略がまったく異なる。たとえば、Googleは個人情報がビジネスの柱となっており、その扱いと規制対応のバランスに苦労しているが、Appleは端末やハードウェアの販売が最優先であり、顧客の情報を他社に利用させるメリットはない。EUや規制当局に積極的にプライバシー保護をアピールして、GoogleやFacebookとの違いを主張している。

 GAFAがなぜ現状のような存在に至ったのか、そのカラクリを細部まで紐解いて初めて戦略が描ける。Googleやアマゾンクラスのビジネスになると、ベストプラクティスとして成功事例だけマネをしても意味はない。彼らの成功までの軌跡を忠実に再現して同じ取り組みや投資を行ったとしても、社会やビジネス環境が異なるのでうまくいかない。

 重要なのは、目指す事業について市場ニーズや変化にいかに対応、改善していくかだ。GAFAが現在の地位にあるのは、市場・社会の変化、当局の規制に柔軟に対応し、その投資を惜しまなかったからだ。

キャンペーンで盛り上がっただけのQRコード決済

 中国都市部で進むキャッシュレス文化、QRコード決済に追従すべく「○○Pay」の濫立も注意が必要だ。国内では、2018年のPayPay参入と年末の100億円キャッシュバックキャンペーンのインパクトが強く、金融機関や流通大手がこぞって参入している。背景には、インバウンドビジネス活性化のため、カード決済やQRコード決済へのニーズの高まりと、2019年導入予定の消費増税に連動するポイント還元のインフラとしての期待もある。

 後者は、リーダーの設置や手数料を嫌う小売店にとって、QRコードを張り出すだけでいいQRコード決済は導入ハードルが低い。全国津々浦々展開しなければならない、消費税還元ポイントのインフラとして利用価値が高い。政府金融庁などの後押しもあり、○○Payにあらずば決済にあらずとばかりに、多数のサービスがローンチされた。

 しかし、戦略のない拙速な事業は、躓くリスクも高い。セブン・ペイがさっそく不正利用の被害にあい、国内QRコード決済市場そのものが揺らいでいる。しっかり作られたQRコード決済も存在するが、大手の失敗の影響は小さくない。もともと日本にはフェリカという基盤を使った交通系カードが普及しており、今以上のキャッシュレス決済のニーズがあるわけではない。PayPayのキャッシュバック目当てに大量のユーザーが踊らされたため、なにかとんでもないトレンドのように見えただけともいえる。

 政府はキャッシュレスを推進したいなら、小売店のカード決済手数料の補助をしたほうがよっぽど効果的だ。そして、どうしてもGAFAに対抗したいのなら、それぞれのビジネスモデルとそれを可能にしている背景技術についてもっと勉強する必要がある。

(ITジャーナリスト・ライター 中尾真二)

 https://www.msn.com/ja-jp/news/money/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e4%bc%81%e6%a5%ad%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e9%81%8e%e5%89%b0%e3%81%aa%e3%80%8cgafa%e4%bf%a1%e5%a5%89%e3%80%8d%e3%81%ae%e6%84%9a/ar-AAFWM2o#page=2

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