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2017年08月30日17:17

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自助努力を欠く夜郎自大な「平和論」は日本、東アジアにとって危険だ 同志社大学教授・村田晃嗣

 下記は、2017.8.30 付の【正論】です。

                       記

 かつて1990年の湾岸危機の際に、日本のテレビキャスターがイラクのサダム・フセイン大統領とアメリカのジョージ・H・ブッシュ大統領の写真を示しながら、「どちらもどちらですね」とコメントしたことがある。軍事力で隣国を侵略した人物と、国連決議をもとにクウェート解放を迫る人物を同列に論じる相対主義には、あきれたものである。

≪不安抱かせるトランプ氏の言説≫

 今や、北朝鮮の金正恩氏とアメリカのドナルド・トランプ大統領に、件(くだん)のコメントに近い印象を抱いている人は少なくないかもしれない。もちろん、ここでも、国連決議を無視してミサイルの発射実験や核実験を繰り返す独裁者と、同盟国の大統領を同列に論じることはできない。

 また、韓国には、米軍とその家族を含めて20万人のアメリカ人が、そして4万人の日本人が住んでいる(さらに毎月約16万人の日本人観光客が韓国を訪れている)。朝鮮半島での武力行使のハードルはきわめて高い。しかし、「激しい怒りと炎」といったトランプ大統領の言説や予測困難性が、北朝鮮への抑止効果を超えて、人々に必要以上の不安を抱かせているのは事実であろう。

 他方で、北朝鮮に核開発を放棄させるには中国の真剣な取り組みが不可欠であり、中国から協力を引き出すために、在韓米軍の撤退を交渉材料にすべきだという意見が、専門家の間でささやかれている。これも今から40年前の大統領選挙で民主党のジミー・カーター候補が在韓米軍の撤退を公約の一つに掲げ、当選後にこれを実行しようとした失敗が思い出される。

 結果的に、軍部と議会、メディア、さらには世論の反対で、カーター大統領はこの計画を断念した。しかし、大統領1人の翻意のために、2年半の歳月を要したのである。米軍最高司令官たる大統領の公的権限は侮れない。ちなみに、この撤退論には日本政府も動揺し、1978年の日米防衛協力のための指針につながった。

≪同盟の重層的な信頼強化を≫

 もちろん、トランプ大統領は在韓米軍の撤退を語っていないし、政権内にはマティス国防長官やマクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官、そして、ケリー大統領首席補佐官など軍高官が多い。そう簡単に撤退論には傾かないであろう。

 とはいえ、今日の国際情勢とアメリカの国内政治の中で、敵対者を抑止しながら、同盟国や友好国に安心感を与えることは、容易な業ではない。同盟国や友好国は、アメリカの軍事戦略に巻き込まれる恐怖とアメリカに見捨てられる恐怖の間を揺れ動くことになる。

 この同盟のジレンマに根本的な解決策はない。だが、その緩和を図ることは可能かつ必要である。

 まず、同盟の信頼感の強化である。安倍晋三首相とトランプ大統領の個人的関係は、おそらくアメリカの同盟関係の中で最も安定している。これは大切な資産である。先日ワシントンで行われた日米安全保障協議委員会(2プラス2)も成功であった。河野太郎外相と小野寺五典防衛相のコンビは、十分な存在感を示した。

 また、自衛隊と米軍とのオペレーショナルな協力関係も強化されている(日韓関係でも、自衛隊と韓国軍とのオペレーショナルな協力関係は維持し続けなければならない)。こうした重層的な信頼関係をもとに、11月のトランプ大統領のアジア歴訪とおそらく来年初頭にまとまるアメリカの国家安全保障戦略に、日本の立場を反映させる努力が必要である。

≪現状の防衛費では対応できない≫

 次いで、自助努力である。厳しい財政状況ではあるが、国内総生産(GDP)比1%弱の防衛費の引き上げを覚悟しなければならないのではないか。北大西洋条約機構(NATO)加盟国はGDP比2%の国防費支出が公約になっている(実現できている国は少ないが)。日ごとに厳しさを増す東アジアの戦略環境に対して、今のレベルでは対応しきれまい。

 また、ミサイル防衛についても地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」が検討されているが、敵地攻撃能力についてもタブーのない議論を進めるべきである。さらに、海上保安庁の増強も必要である(海上保安庁の年間予算は、東京大学のそれを下回る)。自助努力なしには、同盟の信頼関係も色あせていく。

 もとより、外交的努力も大切だが、アメリカや中国でさえ手を焼く北朝鮮に、日本が外交的努力だけで対処できるわけがない。自助努力を欠く夜郎自大な平和論は、日本にとっても東アジアにとっても危険である。安保法制に声高に反対した人たちには、今こそ、北朝鮮の挑発行為にどう対処すべきかを、具体的に論じてもらいたい。安易な核武装論と観念的な護憲論は、自己中心的という意味で実によく似ている。

 折から民進党の代表選である。政権担当を経験した野党として、自民党との違いを強調するだけでなく、現実的な選択肢を提供してもらいたいものである。

(同志社大学教授・村田晃嗣 むらたこうじ)

 http://www.sankei.com/column/news/170830/clm1708300004-n1.html
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