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2016年08月23日15:14

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中国は壊滅的打撃受け、今までの発展が水の泡に 米中開戦のシミュレーション、ランド研究所が公表

 下記は、2016.8.23 付の JBpress に寄稿した、 渡部 悦和 氏の記事です。


   渡部 悦和

   Yoshikazu Watanabe ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、前・陸上自衛隊東部方面総監1978年 東京大学卒業、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。2013年退職

                       記

 中国が現在陥っている経済的危機の深刻さは、「GLOBAL TRENDS 2030」が予想した「中国が破竹の勢いで国力を増強させ米国を2030年に追い越す」というシナリオが実現しないことを意味している。

 私の中国に対するイメージは「手負いの龍」であり、あまりにも無理をして富国強軍を目指したために至る所で綻びが目立っている。

 経済的苦境にある手負いの熊であるロシアがクリミア併合やシリアでの軍事行動などの問題行動を引き起こしている様に、手負いの龍である中国も攻撃的な対外政策をとり続ける可能性がある。

 ダニエル・リンチが「中国台頭の終焉」*1で指摘するように、「中国台頭の終わりは、日本の台頭の終わりが日本のエリートたちを傷つけた以上に中国共産党を傷つけるであろう。国粋主義的な軍人や野望に満ちた外交の戦略家たちは強圧的で不快な外交政策に明らかに関心を持っているが、それらの政策により中国の状況を支え切れるものではない」のである。

 「日米中安全保障関係」をテーマに米国で研究活動を行っていると、大国間の覇権争いの最悪の事態として米中戦争を想定せざるを得ない。

 中国の南シナ海や東シナ海における国際法を無視した主張や行動とこれに対する米国特に太平洋軍の対応を見ていると、偶発的事案(例えば米中の航空機同士の衝突など)が米中戦争に発展する可能性や人民解放軍が強調する短期高烈度地域紛争(Short-Duration High Intensity Regional Conflict)の可能性を意識せざるを得ない。

 安全保障の本質は、最悪の事態に備えることであり、最悪の事態としての米中戦争を想定し、分析し、最終的には米中戦争をいかに抑止するかを考えることは極めて重要である。

 最近(2016年7月)、ランド研究所(Rand Corporation)が“War with China(Thinking Through the Unthinkable)*2” [中国との戦争(考えられないことを考え抜く)]を公表した。

 このランド論文は、米中戦争について4つのケースを列挙・分析し、米中戦争が両国特に中国にいかに甚大な損失を与えるかを定量的に明らかにし、その損害の大きさを強調することによって米中戦争を抑止しようという試みである。

 ランド研究所が得意とする米中戦争のシミュレーション結果に基づく興味深い論文であり、「戦争は、両国の経済を傷つけるが、中国経済が被る損害は破滅的で長く続き、その損害は、1年間続く戦争でGDP(国内総生産)の 25〜35%の減少になる。一方、米国のGDPは5〜10%の減少になる。長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化し、苦労して手に入れた経済発展を停止させ、広範囲な苦難と混乱を引き起こす」などの興味深い指摘がある。

 このランド論文は、米陸軍の委託を受けて書かれたものであり、論文の大部分は秘に指定されて公表されていないと思われる。しかし、今回公表された部分のみでも示唆するところが大きいので紹介する。

*1=Daniel Lynch、“The End of China’s Rise”Foreign Affairs、January 11 2016

*2=David C. Gompert, Astrid Stuth Cevallos, Cristina L. Garafola,“ War with China Thinking Through the Unthinkable”, RAND Corporation

1ランド論文「中国との戦争」

●4つのケース

 米中戦争について、以下の4つのケース(「短期、厳しい」、「長期、厳しい」、「短期、マイルド」、「長期、マイルド」)を列挙し、各々について分析している。

 「短期」は数日から数週間、「長期」は1年程度を意味する。「厳しい」と「マイルド」の決定的な違いは、中国本土の目標を米軍が打撃するか否かであり、「マイルド」では中国本土の目標を攻撃しない。

 中国の軍事戦略は「短期、厳しい」戦争を追求するが、米国は勝利の可能性の高い長期の戦争を指向している。つまり、米中は非対称な戦争の形態を追求していて、ここに米中の思惑の違いがある。

 その結果として、「長期、厳しい」戦争に対する備えをしなければいけないとランドは主張している。

(1)短期、厳しい(Brief, Severe)

 前提:戦争に勝利するという論理とカウンターフォース*3戦略が最初から支配的である。(筆者注:カウンターフォースの具体例は、米軍の場合はエアシーバトル、人民解放軍の場合はA2ADであると認識してもらいたい。エアシーバトルとA2ADの激突が米中のカウンターフォースであると認識してもらいたい)

特徴:

・両者にとって利害関係が非常に重要である。
・危機はカウンターフォースの圧力のために増す。
・両国は、あらかじめ策定した軍事作戦構想を直ちに実行する。中国は、米国の空母や航空基地を攻撃するためにキルチェインを使用する。

・米軍は、中国本土に対する選択的な打撃を行う。
・両国は、選択的なサイバー戦争を実施する。
・軍事作戦的に切迫した状況は、高速および激烈な戦争に帰結する。
・政治指導者は、紛争を終了する時期についてのみ統制する。
・紛争は1週間程度継続する。

(2)長期、厳しい(Long, Severe)

 前提:戦争に勝利するという論理、明確な勝者が存在しない状況、強い敵意、強い決意に基づいて激しい戦闘が遂行される。

特徴:

・指導者は、戦争を終結できないか、選択することができない。
・被る損害は、妥協を困難にする。
・米軍は、中国本土に対する大規模な打撃を実施する。
・非核手段によるエスカレーションが起こる。地理、目標、サイバー戦争、対衛星兵器のエスカレーションが起こる。
・両国は継続的な大きな損失に直面する。
・両国は、より多くの戦力を投入する。中国は、損失の増大とともに動員を行う。
・紛争は1年以上継続する。

(3)短期、マイルド(Brief, Mild)

 前提:指導者は、敵対行為を制限し、紛争の早期終結に同意する。

特徴:

・敵対行為は、予期せぬ事故または誤算をトリガーとする。その際に、第三者を巻きこむ場合がある。
・政治的指導者は、迅速かつ強い作戦統制を実施し、直接的に意思の疎通を図り、敵軍攻撃についての大きな統制権を確保し、現状維持で紛争を終了することに同意する。
・1週間前後で敵対行動を終了する。

(4)長期、マイルド(Long, Mild)

 前提:指導者は敵対行動を制限するが、紛争終了には同意しない。

特徴:

・「短期、マイルド」ケースの発展形である。
・政治的統制により敵対行動を制限する。
・両国の軍は、増強され、狭いところで作戦する。損害は散発的に、しかし継続的に起こる。
・指導者は意思の疎通を図るが、戦闘終結の時期に関して合意に至らない。
・低烈度の紛争は、経済的にも政治的にも継続可能で、いずれの側も譲歩を望まないし、損失の大きな戦争も望まない。
・紛争は1年以上続く。

*3=戦略核理論においては、カウンターフォース(counterforce)は、相手の戦力を破壊するための総力を挙げての試み(総力戦)を意味する。ランド論文は、核戦争を想定していないので、カウンターフォースとは、「通常戦において、相手の戦力を破壊するための総力を挙げての試み」の意味である。例えば、米軍による中国本土に展開する主要なA2AD能力を破壊する試みである。

●米国と中国の戦争についての考え

 米国と中国は、「米中紛争が激烈なものになる」と考えている。中国は短期の紛争を計画(希望)し、米国は長期の紛争の方が米国の勝利にとって有利だと考える。しかし、米中ともに長期の戦争の影響を系統的に分析していないし、計画的かつ相互に暴力の抑制について考えることもしていない。

 中国は、米国との戦争を避け、限定した目的(台湾の独立の阻止、海洋の要求を強制すること)のために軍事力を使用する。しかし、米国との戦争を除外しない。中国本土への打撃、膨大な損失、結果としての敗北を覚悟する。米国の介入を抑止できない、敗北を回避できない場合に備えなければいけない。

 中国は、米国の空母および作戦地域に存在する航空基地を主要な打撃目標としている。中国は、米国のアキレス腱をC4ISRだと認識し、そのためにサイバー戦や宇宙戦の対衛星兵器(ASAT)を重視している。

●2015年と2025年における米中戦争による損失予測

 米軍は、2015年の時点で、人民解放軍よりも長期の激烈な戦争を遂行する能力がある。中国のA2AD能力が米軍を減殺するよりも、米軍は中国のA2AD能力をより早く減殺することができる。

 しかし、将来的には、米軍は、中国のA2AD能力により多大の損失を受け、中国軍の損失は少なくなる傾向がある。

 2025年では中国軍の戦力低下がほんの少し改善し、反対に米軍の戦力低下が大きくなり、2015年に比較して両国の戦力低下の差が縮小する。

 米軍の損失は、2015年に比し、2025年では大きく増加していることが分かる。中国人民解放軍の損失は、2015年も2025年も非常に大きな損失を被ることに大きな変化はない(損失の改善がほんの少し見られる)。

●2015年および2025年の戦争によるGDPの損失

 そして、赤色は戦争による非常に大きな影響、黄色は重大な影響、緑色はほんの少しの影響を示す。そして、それぞれの円の大きさは戦争による貿易上の影響の大きさを示している。

 例えば、中国の場合、米国との2国間貿易は貿易全体の10%で戦争により非常に大きな影響(赤色)を受ける。

 さらに戦争地域近傍の他の国々との貿易は全体の40%で戦争により非常に大きな影響(赤色)を受ける、戦争地域以外のグローバルな貿易は全体の50%で重大な影響(黄色)を受けるので、戦争に対する脆弱性も非常に大きい。

 米国の場合は、中国との貿易は全体の15%で戦争により非常に大きな影響(赤色)を受けるが、戦争地域近傍の他と国々との貿易は全体の10%で戦争により重大な影響(黄色)を受ける、戦争地域以外のグローバルな貿易は全体の75%で小さな影響(緑色)しか受けないので、戦争に対する脆弱性は中国に比してはるかに小さい。
       
●4つのケースの分析結果

(1)短期、厳しい(Brief, Severe)

 米中いずれかの政治指導者が、敵部隊に対する激しい打撃を許可すると、非常に暴力的な戦争が勃発する。

 2015年では、米国の空母や航空基地の損害は重大なものであるが、中国のA2/ADシステムなどの損害は米側の損害以上になる。数日間における米側に有利な損害の米中ギャップは、戦闘が継続するとさらに大きくなる。

 しかし、2025年では、米国の損害は中国のA2/AD能力の向上のために増加するが、中国が被る損害はわずかに減少する。中国の損害は、米国の損害よりも大きいが、その差は縮小する。

 米中両国にとって、戦闘の継続が勝利で終わるかどうかは明確ではないが、経済的には、激しい戦争は中国の世界貿易(その大部分は西太平洋を経由する)に大きな影響を与える。

 一方、米国の損害は中国との2国間貿易に限定される。国際政治や国内政治には少ないインパクトしか与えないであろう。

(2)長期、厳しい(Long, Severe)

 2015年における長く厳しい戦争は、中国にとってさらに悪い結果になる。

 しかし、2025年においては、当初の決定的な結果をもたらさない戦闘は、予想される大きな損害にもかかわらず、両国に戦闘を継続するモチベーションを高める可能性がある。

 米国の軍事的な勝利の可能性は2015年時点に比して悪化するが、中国の勝利を意味するわけでもない。戦争が継続すると、西太平洋の大部分(黄海から南シナ海まで)における民間の海運や空輸は危険になり、エネルギー供給を含む貿易の縮小が中国経済をひどく傷つける可能性がある。

 紛争がより長く激烈になればなるほど、その地域の米国の同盟、国特に日本を巻き込むことになるであろう。

(3)短期、マイルド(Brief, Mild)

 迅速な軍事的勝利の見通しの不透明さ、政治的な統制を失う危険性、大きな経済的損失の恐れにより、全面的な打撃を厳しく制限し、低烈度、散発的、決定的ではない、軍事的損害が最小限度の戦闘になる可能性がある。

 両国の政治的指導者が妥協に傾き、紛争がもたらす経済的損失や国内及び国際的な政治的動揺が生起する以前に紛争が終了する可能性がある。

 つづく
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