下記は、2015.5.25付の産経ニュース【プーチン政権考】です。
記
2月に殺害されたネムツォフ元第一副首相が作成を進めていた、ウクライナ東部におけるロシア軍の活動とされる内容の報告書が5月中旬、同氏の同僚やジャーナリストらによって公開された。これまでの報道や、聞き取り調査などをまとめた同報告書は、プーチン政権がウクライナ領内のロシア軍の存在を否定するなか、さまざまな事例を挙げ、露軍兵士らが「義勇兵」などとしてウクライナに送り込まれていると主張している。その内容の一部を紹介したい。
「休暇」を利用
「われわれのもとには多くのロシア兵がやってきている。彼らは自身の休暇を海辺ではなく、ドンバスの自由のために戦う兄弟とともに過ごすことを選んだのだ」
親露派指導者のザハルチェンコ氏は2014年夏、ロシアの国営放送で、ロシア兵が「休暇」を利用して親露派支援に加わっていると公言し、世界を驚かせた。
プーチン政権は、このような「休暇中の兵士」や「義勇兵」がウクライナ東部に向かったことを否定はしていない。しかし報告書は、彼らが東部に向かった理由に焦点を当てることで、軍が彼らを組織的に送り込んでいるとの見方を裏付けようとしている。
(例1)ウクライナ治安当局に拘束されたロシア兵の証言
報告書は幾つかのケースを紹介している。
その一つは、2014年8月のウクライナ治安当局が拘束したロシア軍兵士の証言だ。このケースでは、ロシア軍の空挺部隊などに所属する兵士10人が拘束されていた。
兵士らは名前が公表され、尋問される様子を撮影した動画も公開された。
この際、露国防省筋は、彼らは「訓練の過程で道に迷った」などと説明していたが、拘束された兵士は「迷うわけがない」「われわれはウクライナに行くことを知っていた」などと証言していた。
(例2)義勇兵として扱われるために「辞職願」を提出
露軍兵士が戦闘地域に向かう前に、ウクライナ側に捕らえられたり、死亡した場合には兵士としてではなく、「義勇兵」として扱われるために、辞職願を書かされていた事例を挙げている。
報告書は、今年2月に露紙コメルサントに掲載された露軍兵士へのインタビュー記事を引用している。
(例3)「ウクライナに向かう」と述べる上官の言葉を秘密裏に録音
また、同じく今年2月には、ムルマンスク州の部隊がウクライナとの国境付近に送られる直前に、東部紛争での戦闘に加わる可能性を指摘した上官の話を秘密裏に録音した音声ファイルが公表され、上官が内容を認めたという。
この上官は「戦争は誰も公式には認めていない。しかし彼ら(親ロシア派武装勢力)を助けねばならないのは、誰の目にも明らかなことだ」と語っていたという。
口を閉ざした親
これらの例のほかに、ネムツォフ氏らに死亡した兵士の親の代理人などからもたらされた情報が紹介されている。子供が死亡したにもかかわらず、国防省から何の補償もされていないことに憤った親が、事態の解明を彼らに依頼したことで、これらの情報が明らかになったという。
報告書では、その情報をまとめた結果、ロシア軍に少なくとも数百人規模の死者が発生していることが判明したとしている。
ただ、これらの実態が明らかになるなか、兵士の親族は次第に口を閉ざし始めたという。ネムツォフ氏はその原因として(1)死者1人あたり300万ルーブル(約720万円)の補償金が支払われた(2)これらの事実を口外しない誓約書を当局に書かされた−ことが原因だと指摘している。
また、その後ネムツォフ氏自身が殺害されたことで、当局の追及を恐れた兵士の親らはさらに実態を公表しなくなったと報告書は結論付けている。
政府は反応せず
ロシアのペスコフ大統領報道官は報告書が公開された12日、「内容を知らない。コメントできることはない」と述べ、政府として反応しない姿勢を強調した。
発表の翌日、報告書の公表を大きく取り上げたロシアメディアはほとんどなかった。「報告書の執筆者は、ロシア軍がウクライナ東部にいるという証明を何一つしていない」(独立新聞)という批判もあるように、確かに報告書の内容の多くは過去の報道を再編集したもので、死亡した兵士の家族などに対する聞き込みも十分とは言い難い。
ただそれでも、多くのロシアメディアが“紛争への関与の有無”という極めて重要なテーマで政府を追及すら姿勢すら見せないなかで、彼らの活動が持つ意味は少なくない。(モスクワ 黒川信雄)
http://www.sankei.com/premium/news/150525/prm1505250002-n1.html
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