いきなり思わせぶりなタイトルですみません。
現代最高の歌姫。となると、M−愛すべき人がいての浜崎あゆみさんではなく、オペラ界では、アンナ・ネトレプコでしょう。そのNです。プロ野球が開幕したので、ただのゴロ遊びです。
そのうち、生で聴く機会があるだろうと思っているうちに、CDも含め、聴き逃してきました。「マリインスキー劇場のトイレ掃除バイトからスターへ」というシンデレラ・ストーリーのキャッチフレーズが話題先行、やらせっぽくて、アイドル風の丸顔といい、ちょっと苦手だったのです。
そんな私のことはおかまいなしに(当たり前ですが)、ネトレプコは、世界で活躍をつづけます。
2005年のザルツブルクで「ラ・トラヴィアータ=椿姫」で話題となると、「フィガロの結婚」とつづき、「ルチア」などのドニゼッティのオペラ映像が出ています。演目のとおり、このころはベル・カント系の軽い声の役でした。ただ超高音を響かせるタイプではなく、美しいがあまり個性を感じない声という印象を持っていました。
この時代、オペラはレコード会社の録音予算がなくなり、CD用のスタジオ録音ではなく、歌劇場の舞台映像が中心となります。ネトレプコが出演するのも、ニューヨークのメトで、容姿や演技に優れた点が追い風となりました。
2010年以降は、「ラ・ボエーム」、ヴェルディの「イル・トロヴァトーレ」、さらには「マクベス」、ワーグナーの「ローエングリン」と役柄を広げていきます。お国もののチャイコフスキー「エフゲニ・オネーギン」も得意としています。
ヴェルディのアリア集は、マクベス夫人です。メデューサみたいで、かなりぎょっとしました。淀川「恐いですね。恐いですね」
プッチーニなどのヴェリズモ・アリア集はこちら。もはや、オペラ歌手というよりは、千手観音か、ランボー怒りのアフガンか、何でしょうね。経済的にも大成功し、丸顔が真ん丸顔になってしまった感じもあります。年齢に応じて、声質も重く肉厚になった印象です。
私は、はたと気がつきました。これは、浜崎あゆみさんのCDジャケットみたいなものだと。聴いたことないけど、ちょっと笑っちゃいます。ますます私は、縁遠くなってしまいました。
改めて、ネトレプコさんの経歴を振り返ってみましょう。
1971年、ロシア南西部の生まれで、サンクトペテルブルク音楽院で学びました。トイレ掃除の話は、学生時代にバイトしたという程度の話のようです。
2000年以降の活躍は上に書いたとおり。プーチン大統領のお気に入り歌手とも言われて、さらに距離を感じます。
アーウィン・シュロットというバリトン歌手と結婚し、男児を授かったという幸せなニュースも聞きました。
ところが、最近、テノール歌手のユシフ・エイヴァゾフと夫婦共演と書いてあって、確認すると、2013年に離婚し、その後再婚したそうです。
今年49歳、5歳下の夫君との舞台共演が増えているようで、本人は幸せでしょう。
N−愛すべき人がいて。主役男女が実際の夫婦というのもありますが、大スターが、共演者を指定し、周囲にイエスマンしかいない大名公演みたいになると、今後の音楽的評価は果たしてどうなのか。
最近の公演映像を観てそんなことを思いつつも、このところヴェルディやヴェリズモ・オペラばかり聴いていて、これは避けて通れないなと2005年の「ラ・トラヴィアータ」の舞台映像を観ました。
ヴィリー・デッカーの演出は、簡素化した舞台で時計盤と時針を巧みに使って、人間ドラマを表出していました。
恋人役はいくつもの作品でカップルを演じたロランド・ヴィラゾン。ミスター・ビーンではありません。多忙すぎて後にのどを痛めてしまいますが、このころは本当に明朗な美声です。ジェルモン役のトマス・ハンプソンを含め、主役3人とも美声です。
「ラ・トラヴィアータ」のヴィオレッタは、各幕ごとに歌い分け・演じ分けが必要となります。舞踏会の1幕では華やかで強さも必要なコロラトゥーラ。愛と別離の2幕は深い感情移入。死にゆく3幕ははかなさを弱音で表現しなければなりません。
マリア・カラスの音質の悪いライブ盤を超える録音や舞台が生まれなかったのも理解できます。昔は、丸々と太った歌手が、結核(肺病?)で死ぬので、客席から失笑が起きるほどでした。
とにかく、最初から最後まで、出ずっぱり。ネトレプコは、最初は快活に、やがて可憐に、見事に歌い、体当たりで演じます。
この舞台は、一人の歌手の大スター誕生の瞬間の記録と言えます。私にとっては、長年の聴かず嫌いを払拭させてくれました。初期アリア集だけでなく、マクベス夫人のCDも、千手観音のCDも、なめらかな美声を楽しんでいます。
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