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2020年06月08日19:58

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あんときの・シェニエ

 「トスカ」の次に「アンドレア・シェニエ」の舞台映像を観ました。
 プラシド・ドミンゴが題名役、名バリトン、ピエロ・カプッチッリがジェラール、チェコのガブリエラ・ベニャチコヴァがマッダレーナ。今年2月に88歳で亡くなったネッロ・サンティ指揮ウィーン国立歌劇場の1981年公演です。

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 ウンベルト・ジョルダーノが1896年に作曲したフランス革命前後の詩人の半生と死を描いたヴェリズモ・オペラの傑作です。
 ヴェリズモとは、普通の人々の生々しい三角関係や嫉妬心、殺傷事件を題材とするもので、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」(1890年初演)、レオンカヴァッロ「道化師」(1892年初演)、この「シェニエ」、プッチーニの「トスカ」(1900年初演)が代表作です。
 「カヴァレリア」が映画「ゴッドファーザー・パート3」で、「トスカ」が007映画で使われたのは故あってのこととなります。「シェニエ」を聴くと、「トスカ」に似た音の響きも多く、台本作家も同じで、プッチーニが影響を受けたことがわかります。

 さて、この舞台、当時40歳のドミンゴは歌唱・舞台姿とも実に格好いいです。
 1980年前後は、スター街道まっしぐらで、一つの役への全力投球が素晴らしい。80年代後半になると、3大テノールの大スターとして、高額ギャラで世界じゅうを飛び回るようになり、変わらず超一流ではあるものの、貫禄がつき、演技のひたむきさは失われがちになるだけに、貴重な映像です。
 カプッチッリも全盛期、シャイー指揮の同じ役の映像(1985年)では、「老い」も感じますが、こちらはエネルギッシュな革命戦士。ベニャチコヴァも可憐です。
 ただ、大喝采のこの公演では、終演後、演出家(オットー・シェンク?)と思しき背広の男性が出てくると、会場からのブーイングが目立ちます。シェンクは、「フィガロ」や「ばらの騎士」では、ロココ調の舞台演出が評判でしたが、「シェニエ」の演出では、あまりに保守的で新しさに欠けると批判されたのでしょうか。

 今回「シェニエ」を観ようと思ったのは、コロナうつで陰惨たる気持ちになっているからではなく、ジュゼッペ・ジャコミーニが歌った舞台(1991年・ジェノヴァ)のCDが新発売されたからです。三色旗ジャケがおしゃれです。

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 ジャコミーニ(1940年生まれ)は、3大テノールの人気に隠れて録音は少ないですが、一部に熱狂的なファンを持ち、日本の藤原歌劇団等へもしばしば来演したイタリアの名テノールです。
 その声は、太く力強く、高音は輝かしい。また、舞台に全身全霊を込めすぎるあまりか、好不調の波もあったようで、絶好調の彼を聴けたファンは大喜びで、不調も含めてファンに愛された歌手でした。
 全盛期の「シェニエ」の発売は音質も悪くなく(少し異音が入る部分があり)、2つの有名なアリアは朗々と響きます。共演のゲーナ・ディミトローヴァとジョルジョ・ザンカナーロも優れており、大満足です。
 「ある日、青空を眺めて」「国を裏切る者」「亡くなった母を」「五月の晴れた日のように」という有名アリアに終幕の二重唱、ヴェリズモの声、声、声に浸れます。
 ジャコミーニの正規録音があるのは「トスカ」「カヴァレリア」「オテッロ」「ノルマ」と2枚のアリア集などだけです。これは、レコード会社がセールスを考えて起用したドミンゴの持ち役と重なったためとされ、何十とあるドミンゴの録音のうちほんの少しでも、ジャコミーニが配役されていたらと残念に思います。
 今回、久々に同じ1991年の「トスカ」録音(ムーティ指揮、フィリップス)を聴き直しましたが、やはり最高です。そこに「シェニエ」のCDが加わったのは、よかったです。

 そう言えば、最近は「シェニエ」の新録音がほとんどありません。
 かつては、マリオ・デル・モナコに、フランコ・コレッリ、1980年代はドミンゴ、カレーラス(画像)、パヴァロッティの3大テノールがレコードや映像録音し、今回のジャコミーニも日本で歌いました。
 しかし、今は、歌えるテノールがいないのか、曲の人気がなくなったのか、最近ではヨナス・カウフマンによる舞台映像くらいしかないのが不思議です。
 何しろ王侯貴族に対する市民革命を志すも、革命成就後、「反革命」のレッテルを貼られて、ギロチン刑を求める市民の狂騒の中、恋人と一緒に死を受け入れる情熱的な話です。
 1981年のドミンゴ、1991年のジャコミーニ、白血病に倒れる前の1985年のカレーラス、あんときの・シェニエたちは、今聴いても心熱くする激しい歌心がありました。

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